7 月号ピックアップ記事 /エッセイ
齋藤秀雄と小澤征爾——二人の遺したもの 秋山和慶(指揮者)
日本音楽界の巨星・小澤征爾氏が令和6年2月、世を去った。西洋音楽の伝統のない日本から、万国で愛される偉才はいかに誕生したのか。小澤氏が生涯の師と仰いだ桐朋学園オーケストラの産みの親、齋藤秀雄氏の存在はいかなるものだったのか。両氏と70年来の交流を持つ国際的指揮者・秋山和慶氏の談に、魂の相伝が感じられる。
【写真=秋山和慶氏/朝日新聞社提供】
私が齋藤先生に徹底して教えられ、小澤さんからも諭されたことがあります。
「音楽を使って自分の名を上げようとするんじゃないぞ。音楽に真摯に向き合え」
音楽の基礎に忠実になり、そこに自分の表現を加えよということです
秋山和慶
指揮者
〈秋山〉
小澤征爾さんが亡くなった。
所属する音楽事務所の社長から、直にその知らせを聞いたのは二月七日のことでした。ああ、とうとう、とうとうこの時が来てしまったんだ。十数年前から長く闘病され、面会すら難しくなった頃から、覚悟はしていたつもりでした。それでもあまりのショックで、頭が追いつきませんでした。
小澤さんと私の関係は、ひと言で言えば「つかず離れず」。初めて会った時、私は14歳で小澤さんは20歳くらいでした。同じ恩師の下で学び、お互い世界へ羽ばたいてからも、折に触れて一緒に指揮をし、弟弟子としてずっと可愛がってもらいました。
(略)
渡欧後、カラヤンやバーンスタインといった世界の名匠に師事した小澤さんですが、若き日から生涯にわたり師と仰いだ日本人がいました。それこそが共通の恩師、指揮者・齋藤秀雄先生です。
齋藤先生なくしていまの僕はないよ――小澤さんはよく言っていました。日本の音楽界に偉大な功績を残した師と兄弟子は、音楽に何を込めて逝ったのか。お二人に接した時間を思い起こしてみます。
~本記事の内容~
■思い出す兄弟子の笑顔
■痩せたオオカミと若きマエストロ
■齋藤メソッドに導かれて
■日本のクラシックの根底にある師資相承
■世界のオザワの誕生
■魂が織り成すオーケストラ
プロフィール
秋山和慶
あきやま・かずよし――昭和16年東京生まれ。38年桐朋学園大学音楽学部卒業。翌年2月に東京交響楽団を指揮してデビュー、同団の音楽監督・常任指揮者を40年にわたり務める。その間、トロント響副指揮者、ヴァンクーヴァー響音楽監督(現・桂冠指揮者)等、世界の名立たる楽団に客演。令和6年に指揮者生活60周年を迎え、9月、東京にて記念演奏会を開催。
編集後記
世界の〝オザワ〟は良師の惜しみない愛と厳しさ、当人の情熱と努力の上に生まれた――。70年前に齋藤秀雄・小澤征せい爾じ両氏に導かれ、同じ道を歩んできた秋山和慶さんの敬慕に満ちた回想に感じ入ることしきりでした。音楽を通じて日本の文化水準を押し上げた偉大な先人の足跡に学びます。
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