孔子とその弟子たちの物語 宇野茂彦(斯文会理事長) 數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問)

2,000年以上もの時を経て、いまなお読み継がれている『論語』。そこに刻まれている孔子の卓越した思想は、弟子たちとの問答を通じて導き出され、評価され、私たちの元へ届けられたものである。まさに師資相承の物語ともいえるこの名著について、中国古典研究者の宇野茂彦氏と、弊誌でもお馴染みの數土文夫氏に繙いていただき、孔子が現代を生きる私たちに語りかけるものを考察したい。

学ぶことの大切さこそが、孔子が弟子たちに一番言いたかったことであり、いま私たちが受け止めるべき師資相承の言葉だと私は思うのです

宇野茂彦
斯文会理事長

〈數土〉 
宇野先生は、お祖父様の哲人先生、お父様の精一先生の志を継いで中国哲学の第一人者として活躍なさっていますが、三代続けて一つの学問に取り組んでこられたというのは大変なものだと感服しております。現在は斯文会の理事長として学問の伝承に尽力なさっているそうですね。

〈宇野〉 
はい。斯文会というのは、明治に入って東洋の学問が顧みられなくなったことへの危機感から、岩倉具視らが中心になって立ち上げられた斯文学会が前身です。それから明治の末年にも高等師範の先生方が、孔子の祭典を復活させたいという発議をして、これに渋沢栄一や柔道の嘉納治五郎など多くの著名人が賛同してもう一つ会ができましてね。大正7年に2つの会が一緒になっていまの斯文会が発足したんです。恐らく日本で一番最初の財団法人じゃないでしょうか。私の祖父や父も理事長を務めました。

いまは一般公開の講座を月に1回開いて、『論語』や『韓非子』の素読などを行っています。

一度しかない人生を有意義なものにするためにも、60歳くらいからもう一度初心に返って『論語』を勉強してみるべきではないかと私は考えるんです

數土文夫
JFEホールディングス名誉顧問

〈數土〉 
先生がお書きになった『孔子ものがたり』を拝読しましたが、孔子と弟子たちの交流が実に生き生きと描かれていますね。まさしく「師資相承」の物語といえます。

〈宇野〉 
ありがとうございます。随分前に書いたものですけれども。

〈數土〉 
拝読しながら改めて痛感したのですが、政治家も経営者も教育者も、このご本に書かれているような心のバックボーンを持っていないと、未来を担う子供たちをしっかり導いていくことはできないし、それによって日本の国体まで損なわれてしまうのではないかということです。

私は技術屋ですけども、日本が失われた30年、40年といわれる深刻な停滞から抜け出せずにいる間、世界ではIT、AIが凄まじい発展を遂げてきました。

こういう時に倫理観というものを見失ってしまったら世の中は混乱してしまうと思うんですが、いまの人はそういうことを教えられていないために、政治家の不正、メーカーのデータ改竄など、いろんなところで問題が起きている。家庭や学校で確固たる心のバックボーンに基づいた教育が行われてこなかったために、いまの日本は非常におかしなことになっていると思うんです。

〈宇野〉 
おっしゃる通りだと思います。

〈數土〉 
幸い、……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇いまこそ求められる心のバックボーン
◇『論語』との出逢い
◇『論語』はなぜ今日まで読み継がれてきたのか
◇人生百年時代に求められる指針
◇挫折感を味わいながらも最高の希望を与えた人生
◇いまの世界に訴えたい『論語』の言葉
◇子貢の応対辞令に学べ
◇自他を冷静に見極めていた子貢
◇窮地に陥った時にいかに対処するか
◇なぜ孔子の元に多くの弟子が集まったのか
◇信無くんば立たず
◇孔子が最も伝えたかったことは何か

プロフィール

宇野茂彦

うの・しげひこ――昭和19年東京都生まれ。43年東京大学文学部卒業。49年同大学院人文科学研究科修士課程修了退学。愛知教育大学、青山学院大学、名古屋大学教授を経て、中央大学教授。現在、中央大学名誉教授、斯文会理事長。著書に『孔子家語』(明治書院)『孔子ものがたり』(斯文会)『諸子思想史雜識』(研文社)など。

數土文夫

すど・ふみお――昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。経済同友会副代表幹事、日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長を歴任し、令和元年より現職。著書に『徳望を磨くリーダーの実践訓』(致知出版社)。


編集後記

東洋古典を代表する書で、日本人に親しまれている『論語』の魅力について、斯文会理事長の宇野茂彦さんとJFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さんにご対談いただきました。子貢や子路、曽子ら、個性豊かな孔子の弟子たちに光を当てることで、『論語』が師弟の物語として鮮やかに甦りました。終盤の「孔子が最も伝えたかったこと」は必読です。

2024年6月1日 発行/ 7 月号

特集 師資相承

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