20代は心のバネをつくる時 増田明美(スポーツジャーナリスト)

選手の“顔”が見えるマラソン解説で高い支持を集める増田明美さん。かつては自身も日の丸を背負い五輪の櫓舞台に立ったものの、無念の途中リタイア。自殺を考えるほどの苦悩から立ち直り、再び走り始めた20代を振り返っていただいた。

20代で飛べなかった私の人生は、20代につくった心のバネのおかげで、次の30代、40代に大きく広がりました

増田明美
スポーツジャーナリスト

……幸い体調は回復し、滝田先生から声を掛けていただいて無事復帰を果たすことができましたが、その間に他の部員との間に大きな差がついてしまいました。私はこの差を埋めるため、毎日練習でくたくたになった後も一人教室に戻って筋力トレーニングを行い、アップダウンのきつい成田の1.5キロの参道を、ストップウォッチを片手に全力疾走して帰宅しました。それは部の練習をも上回るハードなトレーニングでした。
 当時の練習日誌を開くと「いまに見ていろ」と繰り返し綴ってあります。それは、私を選手から外そうとした滝田先生を見返してやりたいという、心の底から迸る激情を伴った言葉でした。悔しくて、不甲斐なくて、涙をこぼした体験が自分の気持ちを強くしてくれる。そのことを、私は初めての挫折を通じて身をもって実感しました。
 滝田先生には、歴史書を読め、歴史書を読めば心が骨太になると教えられました。そこで私は、練習の合間に吉川英治の『宮本武蔵』や『三国志』、山岡荘八の『徳川家康』といった作品を繰り返し読みました。
「あれになろう、これに成ろうと焦心るより、富士のように、黙って、自分を動かないものに作りあげろ」
 ライバル選手が気になって仕方なかった時期、武蔵が弟子の伊織に説いたこの言葉にどれほど救われたことでしょう。

プロフィール

増田明美

ますだ・あけみますだ・あけみ――昭和39年千葉県生まれ。成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立。59年のロス五輪に出場。平成4年に引退するまでの13年間に日本最高記録12回、世界最高記録2回更新という記録を残す。現在はスポーツジャーナリストとして執筆活動、マラソン中継の解説に携わるほか、ナレーションなどでも活躍中。著書に『カゼヲキル』(講談社)『認めて励ます人生案内』(日本評論社)など。


2020年12月1日 発行/ 1 月号

特集 運命をひらく

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