日本語こそが世界を平和にする鍵 金谷武洋(言語学者)

日本語には世界を平和に導く力がある――。様々な実例を挙げてそう語るのが、長年カナダで日本語教師を務めた言語学者・金谷武洋氏である。日本語と英語の違いを明らかにしながら、日本語の持つ美質を解説いただいたが、これはすなわち、日本の未来を切りひらくヒントとなるだろう。

言語は人間が世界を認識するための道具です。違う道具を使えば、当然、世界観も変わります

金谷武洋
言語学者

 アメリカ人や中国人とは対照的に、日本人が自分の意見をはっきりと主張しない傾向が強いことは、世界的によく知られているところでしょう。私は長年言語学を研究する中で、この民族性が築かれた背景には言語が色濃く影響していることに気がつきました。日本語という言葉には、自然と自己主張にブレーキがかかるような仕組みが潜んでいたのです。
 40年以上カナダで暮らし、そのうち2012年に定年退職するまでの25年間はモントリオール大学の東アジア研究所で日本語科科長を務めてきました。その中で300名近い学生を日本への留学に導いてきましたが、毎回彼らの変化には驚かされます。
日本語教師や日本語学習者の間では、昔から「日本語を学ぶと性格が穏和になる」「人との接し方が柔らかくなる」といわれているのですが、全くその通りで、話し方も思考も日本人的になって帰ってくるのです。
 日本へ留学した学生たちが口を揃えるのが、日本人の共感力の高さです。何か困り事があると、ホームステイ先のお母さんが「そう、困ったわね」と、同じ目線で相談に乗ってくれて感動したと多くの学生が語ります。後述しますが、この「共感力」の高さこそが日本語の特徴であり、世界に誇るべき素晴らしい特質であるのです……

*この後は下記の内容が掲載されています*

■日本語は共感の言葉 英語は自己主張の言葉
■述語言語と主語言語
■英語に主語が必要な理由
■学校教育の大きな誤謬
■日本語が世界を平和にする

プロフィール

金谷武洋

かなや・たけひろ――昭和26年北海道生まれ。函館ラ・サール高校、東京大学教養学部卒業。カナダのラヴァル大学で修士号(言語学)取得。モントリオール大学で博士号取得。カナダ放送協会国際局などを経て、平成24年までモントリオール大学東アジア研究所日本語科科長を務める。25年にわたる日本語教師の経験から、日本語の学校文法がいかに誤謬に満ちているかを訴え、新しい日本語文法の構築を提唱している。著書に『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』(飛鳥新社)『日本語に主語はいらない』(講談社)など多数。


編集後記

「おはよう」と「Good morning」の違いなど具体的事例を挙げながら、日本語に隠された美質を言語学者の金谷武洋さんに語っていただきました。日本語の本質を知ることで世界が変わって見えてくるでしょう。

2020年12月1日 発行/ 1 月号

特集 運命をひらく

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