〈いま日本の教育に必要なこと〉人間の根っこを養う教育 田口佳史(東洋思想研究家) 内田伸子(IPU・環太平洋大学教授)

東洋思想研究家として江戸期の教育を研究する中で幼児教育のあり方に強い関心を抱くようになった田口佳史氏。倉橋惣三、堀合文子という保育学の先駆者の薫陶を受け、現在における幼児教育のあり方を提唱し続ける内田伸子氏。スタンスは異なるものの「幼年期の教育が日本の未来をつくる」という思いは同じである。混迷を極める日本にあって人間の根っこを養う教育はいかにあるべきか。そして課題解決のためにいまどういう手を打つべきなのか。それぞれの視点から学びたい。

子供たちの笑顔が輝くのは、大人たちの笑顔が輝いているからです。ああいう大人になりたいと憧れて、子供たちは成長する。
子供たちが手本にする大人になるということが国をよくする第一歩です

田口佳史
東洋思想研究家

〈内田〉 
初めてお目に掛かります。きょうはどうぞよろしくお願い申し上げます。

〈田口〉 
内田先生とお話しするのは私の念願でしたから、お会いできて大変光栄です。私は漢籍の専門家ですから教育に関しては門外漢なんです。50数年、東洋思想を読み耽ってきた私がなぜ幼児教育のプロである内田先生と対談したいと思ったのか。そのことからまずお話しさせていただきたいと思います。

先生もご存じのように「四書五経」をはじめとする東洋思想の根幹に流れるのは修己治人の教えです。つまり、国を治めようと思ったら、まず自分自身を修めなくてはいけないという一本の筋が通っておりましてね。

一人ひとりの人間のあり方と国家との繋がりを思うにつれて、私は人間としての規範を失ってしまったかのような日本人の未来と、そのことで混迷を極める我が国の未来が心配で心配でしょうがなくなってきたんです。

学校でのいじめや不登校の変わらぬ増加もそうですが、最近では闇バイトの実行犯が16歳の高校生だったりするわけです。金のためだったら人を殺しても構わない。そう考える人間が増えてきたことは、その典型でしょう。

〈内田〉 
実に悲しいことですね。

遊びに熱中する中で探究心や好奇心、挑戦心が湧いてくる。
大人たちはその様子をしっかりと見守り、丁寧に寄り添いながら、困っているなと思ったら足場を掛けてあげることが大切です

内田伸子
IPU・環太平洋大学教授

〈田口〉 
そういう時に、ふと歴史家がこぞって口にする言葉が頭に浮かびました。「その国の将来を展望しようと思ったら、絶対に見ておかなくてはいけないものがある。それは20年後、30年後に国を背負って立つことになる子供たちの姿だ」と。

ああ、そうかと。国家の将来というと、国防とか外交とかいろいろな視点があるけれども、何よりもその国を構成する人間がしっかりしていなくては、国としての基盤は成り立たない。とりわけ幼年期の教育や環境は極めて重要だという思いに至ったんです。それで5年ほど前から幼年教育に関する勉強会を開いてきました。

詳しくは後ほどお伝えしますが、私は江戸期の幼年教育にこそそのヒントがあると思っています。ただ、自分の考えが本当に正しいのかどうか、教育の門外漢である私には分からない。それで日本を代表する保育の大家と呼ばれる人はいないだろうかと、何人かの知人に電話で聞いてみたところ、皆が等しく口にしたのが内田先生の名前だったんです。

〈内田〉 
もったいないお言葉です。

〈田口〉 
皆が言うには、日本の保育学には「日本幼児教育の父」である倉橋惣三先生、その教え子で「保育の神様」と言われた堀合文子先生からの大きな流れがある。その大きな流れを受け継がれているのが内田先生であると。そのことを聞いたものですから、今回、このような対談という形でお声を掛けさせていただいたわけです。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容~全10ページ~
◇子供たちの姿を見たら国の将来が分かる
◇子供主体に変わった日本の幼児教育
◇根っこが育って社会性、自制心、挑戦力が育まれる
◇かつての日本は教育立国だった
◇「共有型しつけ」と「強制型しつけ」
◇社会人としての基本はどのようにして身につくか
◇読み聞かせの恐るべき力
◇AIに負けないだけの力をつける
◇非認知能力を育てる5つの方法
◇子供たちの笑顔が輝く国にするために

プロフィール

田口佳史

たぐち・よしふみ――昭和17年東京都生まれ。記録映画監督としてバンコクで撮影中、水牛に襲われ瀕死の重傷を負う。生死の狭間で『老子』と出合い、東洋思想研究に転身。「東洋思想」を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践し、1万人超の企業経営者や政治家らを育成。英語版・中国語版のニューズレターは海外でも高評価を得ている。主な著書(致知出版社刊)に『「大学」に学ぶ人間学』『「書経」講義録』『「中庸」講義録』『王陽明「伝習録」に学ぶリーダーの人間学』他多数。最新刊に『人生の指南書・四書五経の名言を読む』。

内田伸子

うちだ・のぶこ――昭和21年群馬県生まれ。45年お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。学術博士。平成2年同大大学院教授・理事・副学長に就任。専門は発達心理学、言語心理学など。ベネッセ「こどもちゃれんじ」監修やNHK「おかあさんといっしょ」番組開発も務める。23年より名誉教授。IPU・環太平洋大学教授。令和3年文化功労者。5年瑞宝重光章を受章。著書に『想像力─生きる力の源をさぐる』(春秋社)『子どもの見ている世界 誕生から6歳までの「子育て・親育ち」』(春秋社)他多数。


編集後記

混迷を極める日本で、教育の立て直しは喫緊の課題とされています。東洋思想研究家の田口佳史さん、幼児教育のあり方を長年研究してきた内田伸子さん。スタンスは異なるものの、お二人には「幼年期の教育が日本の未来を決める」という共通した思いがあります。「子供は宝」との考えで一人ひとりに真心を込めて向き合う姿勢や読み聞かせの大切さなど、時代を超えた子育ての秘訣が見えてきます。

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