2050年の日本を考える【世界に底力を示すために日本が貫くべきもの】 數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問) 田口佳史(東洋思想研究家)

「日本は2025年に再び甦る兆しを見せるであろう。そして2050年には、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」。国民教育の師父と謳われた森信三師はその晩年、こう予言したという。残念ながら、深刻な内憂外患に直面する我が国にまだ明るい兆しは見えてこない。森師の言葉を真実にするために私たちは何を成すべきであろうか。弊誌でもお馴染みの數土文夫氏と田口佳史氏に、2050年に向け日本が貫いていくべきものを忌憚なく語り合っていただいた。

日本がかつてのような独立自尊の精神を取り戻すことが何と言っても大事だと私は思います

數土文夫
JFEホールディングス名誉顧問

〈數土〉 
きょうは「2050年の日本を考える」というテーマで田口さんと対談してほしいということですが、非常にいいチャンスをいただいて感謝しています。

『論語』に「遠き慮り無ければ、必ず近き憂有り」という言葉がありますが、日本が戦後ダメになったのは、目先、鼻先のニンジンばかり一所懸命追いかけてそれなりの成果を上げてきたけれども、いよいよ世界のトップに立てそうになった時にニンジンが消えてしまった。

それで何をしていいか分からなくなったというところじゃないかと思うんです。要は「百年の大計」とも言うべき長期的視点に欠けていたわけです。

〈田口〉 
おっしゃる通りですね。

〈數土〉
ただ、昨日ソフトバンクの孫正義さんの話を聞いていたら、いまAIがすさまじいスピードで進化していて、とても人間には予想がつかないんだと。経営においても、最近は長期計画を作成しない会社が増えています。世の中の変化が激し過ぎて、つくっても意味がないからです。

ですから、あまり先のことは人知を超えてしまって分からないけれども、2050年という25年のスパンで日本と我われ一人ひとりのあり方を考えるというのは、非常にいいことじゃないかと思うんです。

〈田口〉
私も、こういう企画を考えていただいてとてもありがたいですよ。

横井小楠が説く「世界の幸せのお世話係になれ」という志を貫いていけば、日本は自ずと経済も潤い、世界から尊敬される国になると思うんです

田口佳史
東洋思想研究家

〈數土〉 
対談に先立って致知出版社の藤尾社長から教えていただきましたが、森信三先生が晩年に「日本は2025年に再び甦る兆しを見せるであろう」とおっしゃったそうですね。

確かに海外の経済学者の中にも、日本の力がそろそろ爆発する頃だろうと言っている人がいます。日本はバブル崩壊以降長らく低迷を続けて、失われた30年とも揶揄されてきたが、いつまでも地べたを這い続けているような国ではないだろうと。

実際、日本の個人金融資産は2,000兆円にも達しているし、対外純資産も33年連続世界トップ、外貨準備高も世界で五本の指に入っており、日本という国の信頼感は大きいと。

そして経営においても、いろんな不祥事はあったけれども、商法や会社法の改正など様々な改革を進めてきたことでオープンマインドになってきた。だからそろそろ爆発する時期ではないかと言うんです。

ところがここへきてウクライナやイスラエルで戦火が起こり、なかなか収束していかない。そしてアメリカの景気がなかなか沈静化しない中で、日本は利上げに踏み切らなければ、円安はますます進んでいくでしょう。

加えて、日本は少子化という非常に大きな問題を抱えています。それを補填するために海外から働き手を呼び込もうとしているけれども、円安による賃金の目減りで思うように人が集まらない。

〈田口〉 
以前のようにはいかないようですね。

〈數土〉
そして何と言っても、日本人の平均年収が低い。新卒の平均年収はスイスが約900万円であるのに対し、日本は約300万円ですよ。生活保護を受けている家庭も戦後最多ですしね。

……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇日本が甦る兆しは見えるか
◇素晴らしい知的遺産が生かし切れていない
◇低迷の要因を説明できない怖さ
◇日本から失われた規範形成教育
◇志ある人のネットワークをつくれ
◇大義を四海に布く
◇独立自尊の精神をいかに取り戻すか
◇貫いていくべき日本の原点

プロフィール

數土文夫

すど・ふみお――昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。経済同友会副代表幹事、日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長を歴任し、令和元年より現職。著書に『徳望を磨くリーダーの実践訓』(致知出版社)。

田口佳史

たぐち・よしふみ――昭和17年東京都生まれ。新進の記録映画監督としてバンコク市郊外で撮影中、水牛2頭に襲われ瀕死の重傷を負う。生死の狭間で『老子』と運命的に出合い、東洋思想研究に転身。「東洋思想」を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践し、1万人超の企業経営者や政治家らを育て上げてきた。配信中の「ニューズレター」は海外でも注目を集めている。主な著書(致知出版社刊)に『「大学」に学ぶ人間学』『「書経」講義録』他多数。最新刊に『「中庸」講義録』。


編集後記

緊張高まる世界情勢、迷走を続ける国政。日本はこの難局をいかに打開し、2050年に向けて何を貫いていくべきか。JFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さんと東洋思想研究家の田口佳史さんに縦横に語り合っていただきました。お二人から提示された独立自尊精神の復活や知的資源立国の実現等を通じ、森信三師が予言する「列強から底力を認められる日本」にしていかねばなりません。

2024年8月1日 発行/ 9 月号

特集 貫くものを

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