9 月号ピックアップ記事 /エッセイ
明治第一の功臣・元田永孚が示した日本のこころ 永田 誠(肥後の偉人顕彰会会長)
明治、それは急激に近代化が進展した時代。一面には、舶来の思想がなだれ込んだ時代とも言えよう。そんな歴史の転換点で明治天皇の侍講を20年にわたり務め、同郷の井上毅と「教育勅語」の起草に尽力。稀代の名君を育て、日本を貫くものを世に知らしめんとしたのが元田永孚だ。近年風化しつつあるその偉業を、肥後の偉人顕彰会・永田誠会長に繙いていただいた。
[写真/東京都港区の青山霊園にある、元田永孚の頌徳碑。元田を敬慕する徳富蘇峰らが遺したもので、人の背丈を優に超える大きさで佇んでいる]
君を輔翼(ほよく)し奉るには第一に愛心を以って君に心を注ぎ込むことである
元田永孚
文政元~明示24(1818-1891)年。熊本藩士の父の下に生まれる。11年藩校時習館に入学。安政5年父の死去により家督を相続。明治2年藩の職を辞して隠居。4年明治天皇の侍読となる。8年より待講。24年、明治天皇の特旨により従二位・男爵の叙勲を受けた後、流行性感冒のため享年72で没する。雅号は東野。
〈肖像=国立国会図書館「近代日本人の肖像」〉
永田 誠
肥後の偉人顕彰会会長
熊本の偉人を知っていますか?
同じ熊本在住の方に尋ねると、加藤清正や夏目漱石といった名前が返ってきます。確かに熊本所縁の偉人ですが、残念ながら熊本出身とは言えません。熊本で生まれ育った偉人はたくさんいるのに、地元でも知られていないのです。
例えば細菌学者の北里柴三郎は比較的有名な熊本人で、新紙幣の顔としていま注目を浴びています。しかし熊本には、近代日本の国家建設に素晴らしい貢献をした、もっと語るべき偉人がいることを、声を大にして訴えたいと思います。その一人が、元田永孚です。
普段は元田先生とお呼びしていますが、それは私が心から尊敬しているだけでなく、平成30年に設立した「肥後の偉人顕彰会」で特に力を入れて顕彰しているからです。
元田は明治天皇の侍講を約20年務め、陛下から父親のように慕われた人物です。晩年、同じく私が心服する熊本人・井上毅(こわし)先生と共に「教育勅語」(教育ニ關スル勅語)の起草に尽力された方でもあります。明治政府が拙速に進める西欧化を危惧し、日本人の美風や美徳、精神を守るために意見し続け、〝日本人の道徳の根本〟を明らかにした、明治を語る上で欠かせない存在です。
ところが近年、残念ながらその功績は人々の記憶から消え去りつつあります。一例として、熊本城にほど近い熊本市桜町の百貨店の横には、「元田永孚先生誕生地碑」と刻まれた立派な記念碑が立っていました。約10年前、その生家跡地一帯が再開発の対象となり、碑が撤去されてしまったのです。
県内の企業に勤める私は、碑の所在を問い合わせ、有識者や議員の先生方の助力を得て何とか廃棄を阻止しましたが、移設交渉は難航。紆余曲折あって、新しくできた大型商業施設の地下通路の片隅に碑文を写したプレートが埋め込まれる結果となり、本物の碑は所有者である地元企業の車庫でひっそりと眠っています。
偉人の史跡は観光に資するものばかりではなく、自治体の支援は期待できません。それでも歴史的偉業の風化を食い止めたい。その一心で令和2年より毎年1月、元田先生のご命日前後に慰霊顕彰祭「東野祭」(東野は雅号)を斎行してきました。まず地元で一人でも多くの方に知ってもらうべく、当会は若手を中心とする県議、市議、町議の約10名を含む40名の有志会員で奮闘しているのです。
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~本記事の内容~
■日本の近代化に先鞭をつけた肥後の偉人
■武家で養われた大いなる愛心
■同志との切磋琢磨、決別、失意の隠居
■町外れの私塾から明治天皇の侍講へ
■「教育勅語」誕生前夜
■なぜ二人の魂は呼応したのか
■道徳の根本を明らかにする
プロフィール
永田 誠
ながた・まこと――昭和49年熊本県生まれ。平成7年熊本工業専門学校電気科卒業。一般企業に勤める傍ら、30年「肥後の偉人顕彰会」を設立、副会長に就任。令和3年会長。著書に『井上毅先生』(肥後の偉人顕彰会編/ネクストパブリッシング出版)がある。
編集後記
日本を貫くものとは何か。この簡潔にして容易ならざる問いに立ち向かい、名君・明治天皇に実父の如く慕われた人物。それが元田永孚です。同じ熊本人としての敬慕を交えて永田誠さんが語る元田の姿に、日本人の自覚と誇りが湧き上がってくるような感覚を抱くでしょう。
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