9 月号ピックアップ記事 /対談
iPS細胞を活用したがん治療で夢の医療を実現する 金子 新(京都大学iPS細胞研究所教授) 髙田 明(A and Live代表取締役/ジャパネットたかた創業者)
iPS細胞の作製に世界で初めて成功した山中伸弥氏がノーベル賞を受賞したのは2012年のこと。
その記者会見で、「まだ一人の患者さんも救っていない」と語ったが、あれから12年、iPS細胞技術が医療に実用化される日は確実に近づいている。iPS細胞から作製した免疫細胞を使ってがん免疫再生治療を目指す金子新氏の研究がその一つだ。
(公財)京都大学iPS細胞研究財団アドバイザーの髙田明氏に、プロジェクトの現状と今後の可能性、物事を成就する秘訣、これまでの研究人生を貫いてきたものについて迫っていただいた。
いま目の前にあることを疎かにせず、自分が通ってきたプロセスを一個一個大事にして次に積み上げていく。
そして諦めずにやり続ける。これが私の貫いてきた一つの信念です
金子 新
京都大学iPS細胞研究所教授
〈髙田〉
きょうは金子先生のお話を伺えるのが楽しみで、勉強しながらここまでやって来ました。
〈金子〉
わざわざ佐世保からお越しくださり、ありがとうございます。こうしてじっくりお話しさせていただくのは初めてなので、楽しみでもあり少し緊張しています(笑)。
〈髙田〉
対談が始まる前、ご挨拶に来てくださった山中伸弥先生とは以前から何度かお会いさせていただいて、iPS細胞には非常に関心を持っていました。そんな中、ゴールドラットジャパンCEOの岸良裕司さんからの紹介で、3か月ほど前に金子先生のセミナーにオンラインで参加したら、先生がお若いのでびっくりしましたよ。何年のお生まれですか?
〈金子〉
1970年生まれなので、今年54歳になります。
〈髙田〉
前途洋々、あと50年くらい生きられますね(笑)。あのセミナーは1時間半くらいだったでしょうか、ずっと説明を聞いていたんですけど、専門的な知識のない僕はなかなか理解に及びませんでした。
ただ、iPS細胞を活用することによってがんを治す画期的な治療法で、驚くほど安価なコストを目指していらっしゃるということで、とても期待や希望の持てるお話でした。
「夢を持ち続け日々精進」
愚痴を言わず、他責にせず、やっているつもりにならずに日々精進している人が夢を成就できるんです
髙田 明
A and Live代表取締役/ジャパネットたかた創業者
〈髙田〉
金子先生が取り組んでおられる研究について教えてください。
〈金子〉
私たちはiPS細胞から免疫細胞の一種であるT細胞を作製し、がんの治療法に応用するという研究を行っています。
iPS細胞は2006年に山中先生が世界で初めて作製に成功しました。生体組織から得た細胞を遺伝子操作で若返らせることによって、あらゆる生体組織や細胞に成長できる能力を持つようになる万能な細胞で、ほぼ無限に増やせる上に、様々な機能を追加したり強化したり除去したりする調製も簡単にできます。
T細胞は体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体やがん細胞などを認識して攻撃し、排除することができます。T細胞は自分の細胞と自分以外の異物を見分けるレセプター(受容体)を持っていて、一つのT細胞が認識できる標的は一種類のみ、T細胞ごとに認識できる標的は異なります。
そこで患者さんの体の中でがん細胞と戦っているT細胞、すなわちがんを見分けるレセプターを持つT細胞をがん組織や血液から取り出して、それをiPS細胞にして増やし、再びT細胞に分化させて体内に戻す。これが私たちの目指す個別がん免疫再生治療です。
そして、その個別治療用T細胞の製造工程を簡便な操作で実行できるようにする小型自動培養装置「MyT-Server」の開発をパナソニックさんと共同で進めています。
……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇難しいことをいかに分かりやすく伝えるか
◇「MyT-Server」プロジェクトとは
◇目指しているのは「誰でも、どこでも、いつでも」
◇がん免疫治療に不可欠な3つの要素
◇「あっこれだ!」留学3年目に訪れた転機
◇受け入れてもらえず苦しい局面に立たされる
◇研究者の夢が詰まった夢カタログを携えて
◇過去や未来ではなく大事なのは「いま」
◇優れた能力よりも優しい人間性
◇何のために仕事をするのか
◇2人がそれぞれ大切にしている言葉
◇「往く道は精進にして忍びて終わり悔いなし」
本記事では全10ページ(約13,000字)にわたって、金子新さんと髙田明さんの対談を掲載しています。
プロフィール
金子 新
かねこ・しん――昭和45年愛媛県生まれ。平成7年筑波大学医学群を卒業後、筑波大学附属病院に勤務。10年筑波大学大学院医学研究科博士課程入学、14年博士号取得(医学)。同大学院血液病態制御医学(血液内科)講師、サンラファエレ科学研究所(ミラノ)研究員、東京大学医科学研究所幹細胞治療分野助教を経て、24年より京都大学iPS細胞研究所准教授、令和2年より同研究所教授、筑波大学医学医療系がん免疫研究分野教授を兼任。4年4月から6年3月まで同研究所副所長。
髙田 明
たかた・あきら――昭和23年長崎県生まれ。46年大阪経済大学卒業後、阪村機械製作所に入社し、海外勤務を経験。49年実家のカメラ店「㈲カメラのたかた」に入り、61年分離独立して「㈱たかた」を設立。平成2年に通販事業を開始し、11年社名を「㈱ジャパネットたかた」に変更。27年社長を退任し、「㈱A and Live」を設立。29年サッカーJ2のV・ファーレン長崎の社長に就任し、同年J1昇格へと導く(令和2年退任)。著書に『髙田明と読む世阿弥』(日経BP)『まかせる力』(新将命氏との共著/SBクリエイティブ)など。
編集後記
表紙を飾っていただいたのは、京都大学iPS細胞研究所教授の金子新さん。iPS細胞を活用したがん免疫再生治療の実用化を目指す研究者です。聞き手はジャパネットたかた創業者で京都大学iPS細胞研究財団アドバイザーを務める髙田明さん。この対談は7月12日(金)、京都大学iPS細胞研究所で行われ、開始前には山中伸弥さんも挨拶に来られました。研究に対する期待を膨らませつつ、お二人の話から「何が成否を分けるか」を学びます。
特集
ピックアップ記事
-
対談
iPS細胞を活用したがん治療で夢の医療を実現する
金子 新(京都大学iPS細胞研究所教授)
髙田 明(A and Live代表取締役/ジャパネットたかた創業者)
-
インタビュー
与えられた運命を生かす──95歳の名女将が語る〝不可能を可能に変えてきた道のり〟
佐藤幸子(かみのやま温泉 古窯 大女将)
-
エッセイ
明治第一の功臣・元田永孚が示した日本のこころ
永田 誠(肥後の偉人顕彰会会長)
-
エッセイ
はなちゃんのみそ汁【父は娘をこう育てた】
安武信吾(映像作家)
-
インタビュー
おとうふの可能性をどこまでも切り開いていく
鳥越淳司(相模屋食料社長)
-
インタビュー
「継続は力なり」書のさらなる高みを目指して
井茂圭洞(書家)
-
インタビュー
貫くものをもって努力を続ければ、苦難は必ず人生の糧になる
石田和雄(将棋棋士九段)
-
対談
先人たちの技と心が教えてくれるもの
小川三夫(鵤工舎 総棟梁)
粟田純德(第十五代目穴太衆頭/粟田建設社長)
-
対談
2050年の日本を考える【世界に底力を示すために日本が貫くべきもの】
數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問)
田口佳史(東洋思想研究家)
好評連載
バックナンバーについて
バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます
過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。
定期購読のお申込み
『致知』は書店ではお求めになれません。
電話でのお申込み
03-3796-2111 (代表)
受付時間 : 9:00~17:30(平日)
お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード