2 月号ピックアップ記事 /対談
日本の水と食を護れ! 吉村和就 (グローバルウォータ・ジャパン代表) 鈴木宣弘(東京大学大学院教授)
いま気候変動や土壌汚染、紛争の勃発、人口増加などの影響により、世界的な水不足、食料危機が目の前に迫っていると言われている。それは貧しい発展途上国だけの問題ではなく、世界の経済大国であり、豊かな自然に囲まれた日本もまた例外ではない。それぞれ「水」と「食(農)」の問題に通暁するグローバルウォータ・ジャパン代表の吉村和就氏と東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏に、日本が直面する危機、そして真に豊かな国・日本を取り戻す道筋を縦横に語り合っていただいた。
特にいまの若い人はスマホに頼ってばかりいないで、自分なりの立志を持ち、その実現のために自分の頭で考えて勉強し、自分から体験して、志を同じくする仲間を集めて、日本のため、さらには世界のために活躍してほしいと願っています
吉村和就
グローバルウォータ・ジャパン代表
〈吉村〉
きょうは食・農業の専門家である鈴木先生と対談できることを本当に嬉しく思います。と言いますのは、ご承知の通り、いま世界は大変な状況です。まず地球温暖化による旱魃と洪水が世界中で頻発し、それに比例するように、例えばアフリカでは食料危機が問題になっています。
また、本来であればたくさん水があるはずの南米アマゾンでも水不足が深刻になっていますし、「ヨーロッパの水瓶」と称されるスイスでは60年ぶりの旱魃ということで、ドナウ川などの国際河川の水位が下がり、灌漑農業が半分にまで抑えられている状況です。
〈鈴木〉
いま吉村先生がおっしゃったように、水と食、あるいは水と農業というのは、とても密接に関わり合っていますね。
世界的な水不足の要因にしても、気候変動に加えて、農業のやり方が大きく影響している。私たちは「緑の革命だ」「世界の飢餓を救うんだ」などと言って、化学肥料や化学農薬を大量に使用した農業でどんどん収穫量を増やしてきましたが、結局それで何が起こってきたのか。
化学肥料・農薬の大量投入で植物が育つ土壌環境を整える微生物がどんどん減少し、植物も頑張って根っこを生やさなくても肥料がもらえるとのことで、根っこが短くなっていった。そうなると、今度は植物を育てる力、保水力が土壌から失われ、さらに大量の化学肥料・農薬、水を投入しなければ農業ができなくなったわけです。実際、現在の世界の水使用量の約7割は農業に使われています。
どのような立場にあっても常に自分の胸に手を当てて、いまやっていることは本当に正しいことなのか、人間としていかに生きるべきなのかを問い掛け、行動を変えていくことが、皆が楽しく幸せに暮らしていける豊かな日本、子供たちの明るい未来へ繋がっていくのだと思います
鈴木宣弘
東京大学大学院教授
〈鈴木〉
アメリカ中西部の穀倉地帯でも、これまで地下水を汲み上げて農業生産をやってきたけれども、あと10年、20年も待たず地下水が枯渇するという予測もあります。
〈吉村〉
ええ、アメリカでは、8つの州にまたがるオガララ帯水層という世界最大の地下水帯が枯渇の危機に直面しています。鈴木先生もお詳しいと思いますが、どんどん地下水を汲み上げていくと、最後はどうなるかといえば、水の量が減るだけではないんですね。同時に土壌の塩化が始まり、植物が育たなくなってしまうんです。
アメリカに関してもう一つ深刻なのは、シェールガス革命の影響です。オガララ帯水層の周辺は最大のシェールガスの採掘地なのですが、シェールガスはどのように採るかというと、まず地下を垂直に2,000メートル掘り、今度は水平に1,000メートル掘る。そして粘土岩のようなシェール層に水圧をかけてパカッと割って、そこに付着するメタンガスや油を採っていきます。
ところが、地中深く掘っていくためには潤滑剤などの薬剤を使用しなくてはなりませんが、それが漏れ出してオガララ帯水層を汚染していることが分かったんです。いまアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が大騒ぎしています。
アメリカは先端科学の国だと日本人は思っていますけれども、実は広大な土地を使い、トウモロコシや大豆、小麦を大量生産する世界最大の農業国です。ですから、地下水の枯渇や汚染は、アメリカにとって非常に由々しき問題なんです。
〈鈴木〉
水が足りないだけではなく、質まで劣化している。汚染された水で農業をやれば、農作物を通じて人間の健康にも影響してくるかもしれません。大変な問題です。
プロフィール
吉村和就
よしむら・かずなり――昭和23年秋田県生まれ。大学卒業後、企業勤務を経て、平成10年国連ニューヨーク本部、経済社会局・環境審議官に就任。17年グローバルウォータ・ジャパン設立、代表に就任。著書に『水ビジネス110兆円水市場の攻防』(角川書店)『図解入門業界研究最新 水ビジネスの動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など多数。
鈴木宣弘
すずき・のぶひろ――昭和33年三重県生まれ。57年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て、平成18年東京大学大学院農学生命科学研究科教授。FTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、コーネル大学客員教授などを歴任。著書に『食の戦争』(文春新書)『農業消滅』(平凡社)『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社)など。
編集後記
日本は近い将来、深刻な水や食料不足に直面するかもしれない─そう警鐘を鳴らすのがそれぞれ水と食料問題に通暁する、グローバルウォータ・ジャパン代表の吉村和就さんと東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんです。お二人の白熱した対談から、水と食料を巡る過酷な現実、豊かな日本を子供たちへ残すための具体的な処方箋、そして日本人一人ひとりが取り戻すべき生き方を教えられます。
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