2 月号ピックアップ記事 /対談
日本の底力を発揮する時が来た 櫻井よしこ(国家基本問題研究所理事長) 中西輝政(京都大学名誉教授)

日本が抱える内憂外患は深刻さを増す一方で、混迷窮まれりの感は否めない。そのような時代を生きる私たちにとって大切なことは何か。
保守論壇の重鎮である櫻井よしこ氏と中西輝政氏が口を揃えるのは、世界最古を誇る我が国の歴史を学び、志を立て、未来への希望を抱いて前進することだという。
国民一人ひとりの立志なくして立国はなし。いまこそ日本人の覚醒、精神の甦りが問われている。

「国が何をしてくれるかを求めるのではなく、国のために何ができるのかを問う」
このケネディ大統領の言葉こそ、いまの日本人に必要不可欠です
中西輝政
京都大学名誉教授
〈櫻井〉
リーダーというのは日本が自立した立派な国、民主主義の価値観において世界に誇ることができる国にしていくという大戦略をいつも頭に入れて、その中に個々の政策を置いて考えていかないといけませんね。
中西先生はインテリジェンスも含めて、世界のあり方を俯瞰して論じておられる専門家ですが、そういう目からご覧になると、日本は自立している国なのか。どのように見えますか。
〈中西〉
ええ、全く自立していないですね。安全保障をはじめとして国の根幹が依存の構造になってしまっています。日本人としての志や理想を失っている。明治維新の時の「五箇条の御誓文」じゃないですが、世界に知識を求めて世界の国と共に歩む。しかし同時にその根本には、いざとなると一国として立つ。
国民一人ひとりがこの国をどうしていくのかを真剣に考える精神風土を取り戻さなければいけません。
私が子供だった昭和20~30年代、まだ高度成長前のテレビやクーラーのない時代、大阪の下町でしたが、夏の暑い夜なんか軒先に涼み台を出して団扇で扇いでいるんですよ。お隣さんやお向かいさんも出てきて、大人同士が雑談していると、そのうちに「いまの池田勇人内閣はけしからん」とかいった政談が始まるわけです。
別に教育水準が高い町でもないし、インテリでもない。普通の職工さんたちが政治を滔々と論じ、真剣に国のあり方を考えていることが子供心に伝わってきました。
1961年にアメリカ大統領のジョン・F・ケネディが就任演説で述べた有名な言葉がありますね。
「国があなたのために何をしてくれるかを求めるのではなく、国のためにあなたは何ができるのかを問うてほしい」
これこそいまの日本人に必要不可欠な言葉であり、日本の政治家が勇気を持ってそれを語り続ければ、日本人が立ち直る大きなきっかけになると思います。

すべては歴史、自分の拠って立つ日本国とは何かをきちんと理解することで前向きに生きる力が湧き、志が生まれてくると思います
櫻井よしこ
国家基本問題研究所理事長
〈櫻井〉
これは今回のテーマ、志を立てるというところに繋がっていくと思いますが、やっぱり日本の国柄がどのようにつくられてきたかをよりよく理解することが基本です。
聖徳太子の「十七条憲法」まで遡って、『古事記』『日本書紀』に書かれている日本建国の物語を学ぶことによって、日中の彼我の差を認識すべきだと思います。
先ほど中西先生が「五箇条の御誓文」を取り上げられましたが、その第一条は「広く会議を興し万機公論に決すべし」、要するに民の声を聞きなさいと。これは「十七条憲法」の第十七条にも「夫(そ)れ事は独り断(さだ)むべからず。必ず衆と与(とも)に宜しく論ずべし」と書いてあるんです。
「十七条憲法」の制定は604年ですので、西洋に民主主義が誕生するずっと前から、日本では1400年以上にわたってこの思想が繋がっている。こんな国は他にないです。
こういうことを含め、世界最古である日本の歴史を多方面に学ぶことが一人ひとりの国民にとって決定的に大事です。歴史を知っているか否かで、その人の中から湧き出てくる日本人としての力が桁違いになるんです。
〈中西〉
全くおっしゃる通りです。志というのはやっぱり歴史を学ぶことによって生まれてきますし、ストンと肚に落ちる一つの立脚点になります。まさしく立志なくして立国なしで、一人ひとりが志を持つことですよね。
〈櫻井〉
そのために歴史を学んでほしいですね。すべては歴史、自分の拠って立つ日本国とは何かをきちんと理解することで前向きに生きる力が湧き、志が生まれてくると思います。
……(続きは本誌をご覧ください)
プロフィール
櫻井よしこ
さくらい・よしこ――ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスターなどを経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年に国家基本問題研究所を設立し、理事長に就任。23年第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。近刊に『異形の敵 中国』(新潮社)『安倍晋三が生きた日本史』(産経新聞出版)。
中西輝政
なかにし・てるまさ――昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)など多数。近刊に『偽りの夜明けを超えて』(PHP研究所)。
編集後記
櫻井よしこさんと中西輝政さんはこれまで幾度も弊誌で対談を組んできましたが、直近3回はコロナ禍のためオンライン取材となり、今回5年ぶりに対面を果たしました。お二人とも久方ぶりの再会を喜ぶと共に、お互いの意見に共感し合う姿が印象的でした。日本及び世界の現状と課題、内憂外患に対処する方策、いま国民一人ひとりに求められるあり方について、その本質を突いた見識に学びます。

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