1 月号ピックアップ記事 /エッセイ
松尾芭蕉の名句に学ぶ人生の大事 境野勝悟(東洋思想家)

「昨日の発句は今日の辞世、今日の発句は明日の辞世」。死を覚悟して今日一日を最期の一日として生きた俳聖・松尾芭蕉。長年、芭蕉を研究し、卒寿を迎えた東洋思想家の境野勝悟氏は、弊社から刊行される『松尾芭蕉一日一言』の編纂に携わる中で、いろいろな発見があったと語る。その発見を交えつつ、芭蕉の俳句から人生の大事を読み解いていただく。

いわゆる「侘び」「寂び」をひと言で表現すれば「無価値の価値」の世界です。そこにはどこか日陰のようなイメージがありましたが、実は「侘び」「寂び」の世界はとても明るいものであり、私は芭蕉を通してそのことを教えられたのです。
『松尾芭蕉一日一言』の編纂を通して得た、これはとても大きな発見でした
境野勝悟
東洋思想家
致知出版社より『松尾芭蕉一日一言』編纂のご依頼をいただいたのは2年ほど前のことでした。芭蕉については自分なりに70年間、研究していましたが、このお話には正直、躊躇しました。芭蕉が生涯をかけて詠んだおよそ980句の中から366の俳句や言葉を選び、解説を添えるとなると容易ではないからです。
今日の俳句の多くは、日常のスケッチに心象を載せたいわば写生句です。ところが、芭蕉の句は自然現象から生命の本質を捉えようとするもので、写生句とは一線を画します。しかも、芭蕉の学びは杜甫、李白などの唐詩から老荘思想、禅、日本の和歌、謡曲まで多岐にわたりますから、字面だけではその深さが捉えられないのです。説明しようとすれば、一句につき少なくとも原稿用紙2、3枚の解説が必要となります。
そう思うと『松尾芭蕉一日一言』の編纂は私には大変荷が重く、やり遂げる自信もありませんでしたが、ふと考えたのが句の解説を散文詩にし、そこに込められた芭蕉の思いを表現するのも面白いのではないかということでした。思いをすべて盛り込むことはできないとしても、読者に何かを感じていただけたらという思いで書き始めたところ、自分でも納得いく散文詩が次々に生まれ、2年がかりでこの大仕事をやり遂げることができました。……(続きは本誌にて)
プロフィール
境野勝悟
さかいの・かつのり――昭和7年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、私立栄光学園で18年間教鞭を執る。48年退職。こころの塾「道塾」開設。駒澤大学大学院禅学特殊研究博士課程修了。著書に『日本のこころの教育』『「源氏物語」に学ぶ人間学』(共に致知出版社)『芭蕉のことば100選』『超訳法華経』(共に三笠書房)など多数。最新刊(編著)に『松尾芭蕉一日一言』(致知出版社)。
編集後記
弊社から『松尾芭蕉一日一言』が刊行されました。編纂者は卒寿を迎えた東洋思想家の境野勝悟さん。編纂に当たった約2年間でそれまで分からなかった芭蕉の新たな一面が見えてきたといいます。学生時代以来約70年、芭蕉に魅了されてきた境野さんのお話に興味が尽きません。

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