現場力こそが企業発展の鍵 山本明弘(広島市信用組合理事長) 遠藤 功 (コンサルタント)

20期連続増収を続ける広島市信用組合。その発展にはいくつかの要因がある。事業を融資、預貯金の本来業務のみに特化。泥臭いようでも地域を歩いて中小零細企業を支援する現場主義に徹していることもその一つである。同組合理事長・山本明弘氏はシンプルながら他が真似できない仕組みを構築してきた。一方、コンサルタントでローランド・ベルガー日本法人元会長の遠藤功氏は、現場力の鍛錬、強化により多くの一流企業を再生、発展に導いてきた実績を持つ。現場力を高める上で大事なものは何か。お二人に語り合っていただいた。

私たちがこれだけの業績を維持できるのは「預金」「融資」の本来業務に徹しているからです。投資信託や生命保険、株といった金融商品には一切手を出しません。

泥臭いようでも現場を歩いて、歩いて、歩き抜き、思うような経営ができていない中小零細企業など資金ニーズに応えるのが私たちの使命だと考えています

山本明弘
広島市信用組合理事長

〈山本〉 
きょうは遠藤先生とお会いできるのをとても楽しみにしてきました。先生は経営コンサルタントとして現場力の重要性をもとに名だたる企業を成長、発展させてこられていますが、私どもシシンヨー(広島市信用組合)はまさにその現場力一本でやってきたんですね。

特にコロナ禍以降、金融機関は軒並み外交を縮小しました。現場力が一番足りないのが金融機関です。その点、うちは知恵がないものですから、とにかく現場力の継続、集中、徹底。皆で汗を流して歩き回っています。

〈遠藤〉 
私も山本理事長のご著書や雑誌の記事を拝読しましたが、素晴らしい経営をされていることに感心しました。何でも20期連続の増収だとか。

〈山本〉
はい。ありがたいことに2023年度上半期決算で経常収益は98億円を上回り、経常利益、当期純利益と共に過去最高を更新しました。日本格付研究所の格付は「A+(プラス)」に引き上げられ、見通し「安定的」との高評価をいただいています。

私たちがこれだけの業績を維持できるのは「預金」「融資」の本来業務に徹しているからです。投資信託や生命保険、株といった金融商品には一切手を出しません。泥臭いようでも現場を歩いて、歩いて、歩き抜き、思うような経営ができていない中小零細企業などの資金ニーズに応えるのが私たちの使命だと考えています。そのことが結果的にお客様との真の信頼関係を築く。金融機関が外交を縮小したいまこそがビジネスチャンスでもあるわけです。

私は企業には3つの側面があると考えるんです。つまり「企業体」「共同体」「生命体」です。

業績など外側の部分だけを見ていると、組織のチームワーク、一体感といった共同体の部分、一人ひとりがキラキラと輝く生命体の部分は見えてこないと思います

遠藤 功
コンサルタント

〈遠藤〉 
大変失礼ながら、シシンヨーさんがどうしてこれだけの好業績が出せるのか私は最初、疑問でした。分かったのは、融資に当たり「ローリスク・ローリターン」ではなく「ミドルリスク・ミドルリターン」を狙い、ある程度のリスクを覚悟で融資をし、リターンを得る仕組みを確立されていることでした。

〈山本〉
はい。このコロナ禍でよその金融機関はリスクを取らなくなりました。だけどお客さんが苦しい時こそ自分たちがリスクを負う、というのが私たちの考えです。ただし、うちの自己資本では一社最大174億円まで融資できますが、リスクを分散させるために20億円以下と決めています。融資を受けたお客様が喜んで成長していく。そうなると必ずリターンがあるわけです。

〈遠藤〉 
一般に信用組合は「ローリスク・ローリターン」ですので、シシンヨーさんのように最大20億円の融資を引き出せる例は希だと思います。信用組合でそこまで踏み切れるリーダーはなかなかいないと思いますね。

プロフィール

山本明弘

やまもと・あきひろ――昭和20年山口県生まれ。43年専修大学経済学部卒業後、広島市信用組合に入組。本店営業部長、審査部長などを経て平成7年理事に。11年常務理事、13年専務理事、16年副理事長。17年から理事長。25年全国信用協同組合連合会会長に就任。著書に『足で稼ぐ「現場主義」経営』(金融財政事情研究会)『融資はロマン』(きんざい)。

遠藤 功

えんどう・いさお――昭和31年東京都生まれ。早稲田大学卒業。ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、米国戦略系コンサルティング会社、早稲田大学ビジネススクール教授を歴任。欧州系最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガー日本法人社長・会長として、一流企業の経営コンサルティングにも従事してきた。著書に『現場力を鍛える』『生きている会社、死んでいる会社』『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』(いずれも東洋経済新報社)『現場女子』(日本経済新聞出版社)他多数。


編集後記

預金、融資という本来業務に特化した「シンプル経営」で業績を伸ばし続ける広島市信用組合。他の金融機関の追随を許さない独自のシステムをつくり上げた理事長・山本明弘さんは企業発展の源泉は現場力にこそあると語ります。同じく現場力をキーワードに長年、一流企業の経営改善に力を尽くしてきたコンサルタント・遠藤功さんとの対談は熱気に溢れ、示唆に富んだ取材となりました。

2023年12月1日 発行/ 1 月号

特集 人生の大事

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