8 月号ピックアップ記事 /対談
悲しみはいつか恵みに変わる 西舘好子(日本子守唄協会理事長) 古巣 馨(カトリック長崎大司教区司祭)

命の根源である子守唄の伝承を通して虐待防止やシングルマザー支援などの活動に取り組む日本子守唄協会理事長・西舘好子氏。思わぬ出逢いから聖職者としての道を歩むようになったカトリック神父で教誨師でもある古巣馨氏。お二人は長年、多くの人の悲しみや愁いに寄り添いながら、その未来を拓くために献身的な歩みを重ねてきた。自身もまた様々な人生の悲愁を越えながら生きてきたお二人が語り合う幸せへの道標。

私の中には辛く悲しい体験が必ずよい方向に繋がるはずだという思いがあります。年齢を経て初めて分かるものがたくさんあるんです。だから、若い人たちには希望を持って歩んでほしいと心から思います
西舘好子
日本子守唄協会理事長
私も(元夫の)井上(ひさし)さんと離婚した1986年、マスコミや世間に大スキャンダルだと散々叩かれて他人を恨んだりもしました。
子供は井上さんのほうで育てる、財産もすべて子供たちに渡すという条件だったので、ハンドバッグ一つで家を出たんです。特に子供との別れは辛くて辛くて毎日泣き続けました。
だけど、私の中にはこの体験が必ずよい方向に繋がるはずだという思いがありました。
実際、子守唄と出逢い、80歳を超えたいま、年月の恵みみたいなものをいただけたことを感じます。いずれ訪れる死からものを考える訓練ができてくると世の中が変わって見える。
このように年齢を経て初めて分かるものがたくさんあるんです。だから、若い人たちには希望を持って歩んでほしいと心から思います。

加速する社会で取り残されないように、身体や気持ちだけが先に行ってしまい、心や魂がついていけなくなって、多くの子供や大人が望みなく、頼りなく、心細くさまよい始めています。
だから、心や魂が追いつくまで、立ち止まり、座り込んで待つ必要があると思っています。身体と魂が一つになり自分を取り戻した時、人は自然に「よし!」と言って、立ち上がり歩き出すのです
古巣 馨
カトリック長崎大司教区司祭
マザー・テレサは晩年、「こんな罪深い人間なのに、こんなに弱い人間なのに、神はあなたを頼りにしています」と、一緒に働く姉妹たちによく言っていました。彼女自身もそう自覚しながら生きて来たのでしょう。
私も罪と弱さのかたまりです。
それでも「神は私を頼りにしている」と信じながら、与えられた務めを果たさなければと自らを鼓舞してきました。
プロフィール
西舘好子
にしだて・よしこ――昭和15年東京生まれ。劇団の主宰や演劇のプロデュースで活躍し、平成12年NPO法人日本子守唄協会を設立。現在は理事長として、子供たちへの文化の継承に尽力。著書に『歌い継ごうよ、子守唄』(仏教企画)『こころに沁みる日本のうた』(浄土宗)など。
古巣 馨
ふるす・かおる――昭和29年長崎県生まれ。56年初来日したヨハネ・パウロ二世教皇により司祭叙階。現在、長崎大司教区法務代理、長崎純心大学教授、福岡カトリック神学院講師、列聖列福特別委員会委員、長崎刑務所教誨師などを務める。信徒発見などキリシタン史をテーマとして活動を続ける劇団「さばと座」を主宰。著書に『ユスト高山右近』(ドン・ボスコ社)
編集後記
表紙を飾っていただいた日本子守唄協会理事長の西舘好子さんとカトリック長崎大司教区司祭の古巣馨さんは長年にわたり、不遇な環境に身を置く人たちに寄り添い、支援を続けてこられました。お二人もまた様々な重荷を担ぎながら、悲愁と向き合う人生を歩まれてきただけに、その思いは並々ならぬものがあります。悲しみや苦しみの中から生まれた実話や生き方の信条に胸を打たれます。

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