8 月号ピックアップ記事 /私の座右銘
試練は宝 大髙善興(ヨークベニマル会長)
各界を代表する企業、機関、団体を牽引してきたリーダーに、人生観・仕事観を形成した体験や、トップとして貫いてきた信条を披歴いただく連載「私の座右銘」。今回ご登場いただいたのは、東北~関東の五県にスーパーマーケット約250店舗を展開するヨークベニマルの大髙善興会長です。2000年に創業家四代目の社長に就任し、低迷していた業績を回復。東日本大震災で店舗の過半数が壊滅的被害を受けながらも、店長をはじめ現場社員と結束し、危機を乗り越え会社を発展させてこられました。
一人のお客様に出会うということは大変な苦労がいる。これからは25軒歩いた気持ちで、感謝の心・ありがとうの気持ちで目の前にいる一人のお客様に誠実を尽くそう――
大髙善興
ヨークベニマル会長
当社は福島県を中心に宮城・山形・栃木・茨城の五県で、主に食料品を扱うスーパーマーケットを約250店舗展開し、今年で創業75周年の節目を迎えました。
新聞記者だった父・善雄が、戦後の混乱の最中、地元の福島県郡山市に僅か6坪の小さな乾物屋(かんぶつや)を開いたのが当社の始まりです。しかし父には商売の心得がなかったこともあり、創業当初はほとんどお客様が来ない開店休業状態が続きました。それを見かねた母は生きていくために、中古の自転車にスルメや切り昆布を載せて方々に売り歩く行商を始めたのですが、10キロ、20キロ、10軒、20軒と歩いても、誰も声さえ掛けてくれません。
ようやく25軒目で、田舎のおばあさんが
「何を持ってきたんだい? 見せてみっせ(見せてみなさい)」
と声を掛けてくれ、品物を買ってはくれなかったものの、母は感激して涙が止まらなくなったのでした。そしてその日の晩、母は父にこう伝えたのです。
「一人のお客様に出会うということは大変な苦労がいる。これからは25軒歩いた気持ちで、感謝の心・ありがとうの気持ちで目の前にいる一人のお客様に誠実を尽くそう」
以後、父と母は明るい笑顔と感謝の心、「うちの店のお客様(ロイヤルカスタマー)の創造」「目の前のお客様一人ひとりの満足が最大のセールスマン」との考えを大切に真心を尽くし、一人また一人と口コミでお得意様を増やしていったのでした。
これは創業精神「野越え山越えの精神」として、現在に至るまで当社にしっかり受け継がれています。
プロフィール
大髙善興
おおたか・ぜんこう――昭和15年福島県郡山市生まれ。33年高校卒業後、ヨークベニマル入社。専務取締役、副社長を経て、平成12年社長。27年より現職。
編集後記
南東北~北関東で地域随一の規模と販売力を誇り、東証一部(当時)上場を果たしたヨークベニマル。創業家出身の四代目社長である大髙善興さんは、セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド〈セブンプレミアム〉の生みの親でもあります。しかしいわゆる勢いの凄まじい剛腕経営者ではなく、社員一人ひとりの物心両面の幸福を切に願い、常に修養を欠かさないリーダーの姿がそこにありました。
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