6 月号ピックアップ記事 /エッセイ
『孝経』が教える生き方 竹内弘行(中国思想史家)
孔子の説く親孝行の教えを抽出し、古来、数ある古典の中でも『論語』と並んで別格の位置づけをされ、大切にされてきた『孝経(こうきょう)』。家族の絆が薄れ、様々な問題が噴出する現代に、この教えから学ぶべきことについて、中国思想史家の竹内弘行氏にお話しいただいた。
身体髪膚(はっぷ)、之を父母に受く、敢(あ)へて毀傷(きしょう)せざるは、孝の始(はじめ)なり
〈この身体の頭髪や皮膚に至るまで、すべてが父母から頂戴したものである。この大切な身体を、決していため傷つけないように心がけること、これが孝行の始めである〉
竹内弘行
中国思想史家
家族を疎ましいと考える人も増え、近年は「おひとりさま」や「結婚しない選択」といった言葉が持てはやされるようになりました。先日、「家族終了」という言葉を初めて目にした時には、愕然としたものです。
やむなくそうした立場に追い込まれて苦しんでいる人がいる一方で、耳当たりのよい概念に振り回されて道を見誤ってしまう例も少なくないのではないか、と私は危惧(きぐ)しています。
個人主義が進み、家族は自分の自由を束縛し、夢の障害になるものと否定的に捉とらえる風潮が蔓延(まんえん)する一方で、増え続ける独居老人に介護が追いつかず、海外からも介護士を呼び寄せなければならない現実にも目を向けなければなりません。
いま一度、自分に命を授けてくれた両親を尊び、家族の大切さを見つめ直さなければならない時期にきていると私は強く思うのです。
プロフィール
竹内弘行
たけうち・ひろゆき――昭和19年愛知県生まれ。九州大学助手、高野山大学専任講師、名古屋学院大学助教授・教授、名古屋大学大学院教授を経て、現在名古屋大学名誉教授。中国思想史専攻。著書に『十八史略』(講談社)『孝経』(たちばな出版)など。
編集後記
親殺し、子殺し、幼児虐待など耳を疑うような事件が後を絶ちません。こういう混迷の時代だからこそ、親孝行の大切さを説いた東洋古典『孝経』の言葉が心に響きます。中国思想史家・竹内弘行さんに解説いただきました。
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