人は皆、限られた命を生きる 宮本祖豊(比叡山延暦寺観明院住職)

人は一生のうち、どこまで精神を高めることができるのだろう。
20代の頃から修行に打ち込み、比叡山で最も過酷とされる行の一つ、「十二年籠山行」の戦後6人目の満行者となった宮本祖豊師。2年前にがんが見つかり、昨年ステージⅣの宣告を受けたというが、その姿勢にはいささかの迷いも動揺もない。
限りある命をどう生きるか。伝教大師最澄の教えを交え、現在の心境を吐露していただいた。

最期の一瞬まで一歩でも半歩でも己の精神レベルを磨き高め、一隅(いちぐう)を照らしていく覚悟です

宮本祖豊
比叡山延暦寺観明院住職

まだ薄暗い朝5時前に目を覚まし、比叡山(ひえいざん)の麓にある自坊にてお経を上げることから私の一日は始まります。

朝食を摂った後、支度をしてケーブルカーで山上へ。大日如来様を御本尊とし、緑豊かな境内に建つ大講堂の責任者としてお勤めに従事しております。

お勤めとは何かと言うと、私たち天台宗で拠り所にしている『法華経(ほけきょう)』の読誦(どくじゅ)などが主なものです。夕方4時半にそれら山上の勤務を終えますと、麓の自坊に戻り、夜のお勤めをして、遅くとも11時には明日に備え床に就く。これが毎日変わらぬ流れです。

つい数年前まで居士林(こじりん・在家の方のための研修道場)の所長を務め、企業の新入社員や学生さんの研修も多く受け入れていました。僅か一泊二日ないし二泊三日で、食事から坐禅、写経まで、お坊さんの作法をひと通り体験し、自分を見つめていただく。当時は企業や地方の寺院に頼まれて法話に赴くこともよくございました。

ところがその居士林が4年前に台風で潰れ、加えてコロナ禍に見舞われたことで、そうした機会はめっきり減ってしまいました。世の中を見渡しても、リモート化が一挙に進み、家にいる時間が急増したがために、家族との喧嘩や夫婦の離婚が増えたといったマイナス面が目につきます。

けれども、物事にはマイナス面があれば、必ずプラス面もあるものです。このコロナ禍によって自分自身を見つめる時間が増えた、と捉えることもできるはずです。長らく仕事に追われ、自分を省みる時間が持てずにいた方は特に、貴重なチャンスが与えられたと考えてみてはいかがでしょうか。

これは私自身が実感を込めて言えることでもあります。昭和59年、24歳で出家得度し、比叡山で最も過酷な行の一つ「十二年籠山行」を満行しました。

外界との交流を遮断された環境で行に励む。その中で様々な試練に遭いながら、自分の心を見つめることがいかに大切かに気づかされてきました。

修行と人生、この二つは違うように見えて、必ず壁に突き当たる点は同じです。それを乗り越える参考になればとの思いで、いまも機会あるごとに自分の体験をお話ししているのです。

プロフィール

宮本祖豊

みやもと・そほう――昭和35年北海道生まれ。59年出家得度。平成9年好相行満行。21年比叡山で最も厳しい修行の一つである十二年籠山行満行を果たす(戦後6人目)。比叡山延暦寺円龍院住職、比叡山延暦寺居士林所長を経て、現在は同観明院住職、大講堂輪番職を務める。著書に『覚悟の力』(致知出版社)。


編集後記

宗祖・最澄以来、1,200年続く法灯を文字通り身を以て感得してきた宮本祖豊さん。がんの発覚と転移、命の残り時間を知ってなお、「私の命題は変わりません」と高みを求める様に圧倒され、厳粛な気持ちになります。

2022年5月1日 発行/ 6 月号

特集 伝承する

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる