青少年に人間学をどう伝承するか ~日本一の秘訣は〝木鶏会〟にあり~ 堀井哲也(慶應義塾体育会野球部監督) 田中辰治(星稜高等学校野球部監督)

昨年、34年ぶりの全国大会優勝に輝いた慶應義塾大学野球部、同じく昨年、全国大会二冠を成し遂げた星稜中学野球部。それぞれの監督を務めた堀井哲也氏と田中辰治氏は、互いに技術力だけでなく人間力を高めたことが日本一に繋がったと断言する。
その秘訣は『致知』をテキストにした勉強会「木鶏会」にあるという。木鶏会を通じて選手は、チームはどう変わったのか――。その軌跡を伺った。

昨年、34年ぶりに日本一を掴んだ慶應義塾体育会野球部(全日本大学選手権)

同じく昨年、二冠を成し遂げた星稜中学野球部(全日本少年軟式野球大会)

木鶏会(もっけいかい)とは?

物事には知識・技能を学ぶ〝時務学〟と徳性を学ぶ〝人間学〟があって、この人間学を学ぶことで天真(てんしん)が発揮されると知って、頭が整理されました

堀井哲也
慶應義塾体育会野球部監督

〈田中〉
私は人選をする時、選手たちに「たとえ技術力が劣っていても、人間力のある選手を使う」とはっきり伝えています。

普通、代打には一番能力のある選手を使うのでしょうが、私は一番頑張っている選手、チームで信頼されている選手を抜擢(ばってき)します。

去年の全国大会でもそれまで8~9番を打っていた選手に四番を打たせた試合がありました。彼は人間学を学んで普段の生活や授業中の態度がよくなり、成績も上がったと先生の間で評判でした。

それで実際に起用したところ、見事結果を出してくれたんです。心を磨き高めることが技術力向上に繋がるのだと改めて教えられました。

〈堀井〉
すごくよく分かります。

以前の私は「人間力」という言葉に対して、どちらかと言うと否定的というか、正直、数字で測れない主観的な人間力や努力をどう判断し表現していいか分からなかったんです。「頑張っていると言ったって、皆陰で頑張っているんだ」と屁理屈をこねていました。

しかし、『致知』と木鶏会に出逢い、素直に人間力って素晴らしい、人間力という評価軸はあると堂々と言えるようになったんです。

やっぱり、何か見えない力が働くのが日本一を掴めるチームだと思います

田中辰治
星稜高等学校野球部監督

〈田中〉
矛盾するようですが、ゴミ拾いや挨拶をしたからといって、それが技術力向上に直接繋がるわけではありません。

しかし見ている人は見ているというか、人間力を磨かない限り、全国大会の場で勝ち続けることは難しいと思います。

〈堀井〉
同感です。私も野球術に関しては勉強し尽くしていて、その上でもう一方の人間学の学びが加わったことで、一気に成果が出ました。

技術やスキルといった時務学を磨くのが日々の練習で、人間学を磨くのが木鶏会。その両方がトップになってこそ日本一になれるのでしょうね。

〈田中〉
思えば私が受けてきた山下名誉監督の指導がまさにそうでした。そう考えると、昭和世代のスポ根的な指導はもともと人間学がベースになっていましたね。

〈堀井〉
僕らが昭和世代に叩き込まれたド根性精神を、もっと上品に表現しているのが「人間力」なのかもしれません(笑)。

〈田中〉
そういうことですね(笑)。

〈堀井〉
いまものすごく納得しました。

プロフィール

堀井哲也

ほりい・てつや――昭和37年静岡県生まれ。韮山高校卒業後、慶應義塾大学へ進学。59年大学卒業後、三菱自動車川崎で4年間プレーし、現役引退後はマネジャーに。平成5年に創部された三菱自動車岡崎のコーチを経て、8年に監督就任。17年からJR東日本で指揮を執る。令和元年12月に慶大の監督に就任、3年東京六大学リーグ戦にて30年ぶりの春秋連覇を達成。また全日本大学選手権では34年ぶりの優勝を果たす。著書に『エンジョイベースボールの真実』(ベースボール・マガジン社)がある。

田中辰治

たなか・たつはる――昭和52年石川県生まれ。星稜中学では1年次から活躍するも、怪我により星稜高校ではマネジャー兼三塁コーチャーとして、夏の甲子園準優勝を経験。大学に通いながら星稜高校のコーチを務めた後、平成13年に星稜中の監督に就任。令和3年全日本少年軟式野球大会にて5年ぶり4度目の中学日本一に。その翌月に行われた全日本少年春季軟式野球大会でも優勝し、2冠の偉業を成し遂げた。監督就任以来、史上最多6度の日本一に導いた。著書に『人間性も野球も〝日本一〟』(ベースボール・マガジン社)がある。


編集後記

『致知』をテキストに人間力を高める「学内木鶏会」を実施し、昨年共に野球日本一を成し遂げた慶應義塾大学と星稜中学。部を率いる堀井哲也さんと田中辰治さんは初対面ながらすぐに意気投合し、それぞれの話から新たな気づきや学びを得て、啓発し合う姿が印象的でした。

2022年5月1日 発行/ 6 月号

特集 伝承する

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる