かくて一流店を築いてきた 河田勝彦(オーボンヴュータン オーナーシェフ) 斉須政雄(コート・ドール オーナーシェフ)

日本洋菓子界の巨匠・河田勝彦氏が切り盛りするフランス菓子屋「オーボンヴュータン」。日本のフランス料理界を牽引してきた斉須政雄氏が腕を振るうフレンチレストラン「コート・ドール」。共に開店から40年、35年の節目を迎えるが、今日を築くまでにお二人が積み重ねてきた努力、仕事に懸ける情熱を余すところなく伺った。

何が起きるか分からないけれど、リスクを背負っていくからこそ、大きな学びが得られます

河田勝彦
オーボンヴュータン オーナーシェフ

夢は叶うと信じて全力で走り続けられる人が最後に夢を掴めるのだと思います

斉須政雄
コート・ドール オーナーシェフ

斉須
 最近は、良くも悪くもとどのつまりまで追い詰められる経験をした人が少なくなりました。私たちの時代は、ついていけないのならば容赦なく自分のポジションがなくなり、もうその店には置いてもらえなかった。まさに生きるか死ぬかの世界でしたので、必死に食らいついていましたよね。それは日本の環境では味わえなかったと思います。
 河田さんもおっしゃっていましたが、こうした苦労は若いうちに絶対に経験したほうがいいと思います。若ければ失敗してもまだ盛り返す体力を持っています。若いうちに楽した人で、晩年大成した人はいないのではないでしょうか。

河田
 若いうちに本場でしっかり修業したことは、その人の人生の土台になるので、私は若い人に海外に出ることを推奨しています。でも、最近の若い人は出発前にすべて準備しているんですね。どこに住んでどこで働いて、ギャランティはいくらでと。それで一年やそこらで帰って来る。それで何が学べるのだろうかと甚だ疑問です。それだったら貧乏旅行したほうがいいのではとさえ思います。何が起きるか分からないけれど、リスクを背負っていくからこそ、大きな学びが得られます。
 そういう意味で、最近の若い人には強い情熱の塊のようなものが見えてこないのが残念でなりません。お店をオープンした頃など、私はよく従業員と喧嘩しました。それは、私自身も従業員も情熱を持って仕事をしていたからです。

斉須
 最近は分からないことがあるとすぐスマホで検索して答えを探しますよね。スマホで得た知識はその場で使い捨てられ、身につくことは少ないと思います。汗にまみれながらも生身の人間、実際の体験の中でしか学べないことはいっぱいあって、技術はもちろんですが、仕事に向き合う姿勢、生き方そのものを貪欲に求めてほしいと願っています。

プロフィール

河田勝彦

かわた・かつひこ――昭和19年東京都生まれ。米津風月堂を経て42年渡仏。9年間で12店舗に勤務し、49年「パリ・ヒルトン」のシェフ・ドゥ・パティシエを務める。帰国後、かわた菓子研究所を設立。56年東京都世田谷区に「オーボンヴュータン」開店。平成24年現代の名工に選出される。著書に『すべてはおいしさのために』(自然食通信社)など。

斉須政雄

さいす・まさお――昭和25年福島県生まれ。48年渡仏し、12年間、複数の3つ星レストランで働く。56年から勤務する「ランブロワジー」は開店2年目で史上最速のミシュラン2つ星を獲得。61年東京都港区に「コート・ドール」を開店し、料理長に就任。平成4年からはオーナーシェフとして活躍。著書に『調理場という戦場』(幻冬舎文庫)など。


編集後記

「オーボンヴュータン」と言えば、フランスの伝統菓子屋として広く知られています。片や「コート・ドール」は日本のフランス料理界を牽引してきた名店です。それぞれの店でオーナーシェフを務める河田さんと斉須さんの料理に向き合う覚悟には、分野こそ違えど成功の要諦・仕事の流儀が凝縮されていました。
互いに尊敬され、謙遜され合うお二人でしたが、対談中も終始、お相手の話から学ぼうとする姿勢が印象的でした。

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