10 月号ピックアップ記事 /インタビュー
信はいずれ愛となり、愛はやがて和となる 宮田博文(宮田運輸社長)
「愛は経営の魂」、そう断言するのが大阪を中心に運送業を営む宮田運輸社長の宮田博文氏。ある死亡事故をきっかけに、管理型経営から「心をベースにした経営」に180度切り替え、子供たちの絵がラッピングされたトラックで荷物を運んでいる。「愛で行ったことは愛で返ってくる」と語る宮田社長に、その改革の全容を伺った。
愛って、小っ恥ずかしくてなかなか言いにくいですよね。それよりもマーケティングとかブランディングなどのほうが大事なんじゃないかと。でも、「愛でいけるやん」というのが、これまで私が様々なことを経験する中で至った偽らざる思いです
宮田博文
宮田運輸社長
――宮田運輸さんといえば、子供たちの絵がラッピングされたトラックで有名ですね。
宮田
「こどもミュージアムプロジェクト」と言って、交通事故をなくしたい一心で2014年に始めた取り組みです。子供たちが書いた絵を大きく引き延ばしてトラックに貼っただけですが、たった一枚の絵を背負っただけで、驚くほど様々な変化が現れました。
まるで自分の子供を乗せて運転しているような感覚になるのか、ドライバーたちは無理な運転をしなくなりましたし、トラックはいつも洗車されていてピカピカ。ドライバーだけでなく、周囲からの反応も変わりました。
高速道路で追い抜かれ際にご婦人が助手席から振り返って笑顔で手を振ってくれた、「仕事でイライラしていた帰り道、御社のトラックを見て心が穏やかになりました」と手紙が届くなど、社内外から嬉しい声が寄せられています。
――運転する人だけでなく、周囲をも感化しているのですね。この活動はどういういきさつで始められたのですか?
(中略)
宮田
2012年、42歳の時に4代目を継いだ矢先のことでした。いまから9年前、まだ暑さが残る8月30日に、専務から「会社のトラックとスクーターバイクの接触事故があった」と電話が掛かってきたのです。急いで病院に向かったものの、着いて案内されたのは霊安室でした。既にお相手の43歳の男性は息を引き取っておられ、ご家族がご遺体を取り囲まれている状況でした。
恐る恐るお声を掛け、名刺を差し出した私に、亡くなられた男性のお父様がこうおっしゃいました。
「わざわざありがとう。私はどっちが悪いとか分からへんけども、たったいま、自分の息子が命を落とした。そしてその息子には、小学校四年生の娘がいたということだけは分かっておいてくれ」
罵倒されることもなく、優しい口調でそうおっしゃるのです。私はただ、「誠心誠意尽くさせていただきます」と、深々と頭を下げるしかありませんでした……
※ここから、宮田社長の心、経営をどのように変えていかれたのか、その歩みは本誌p.46をご覧ください。
プロフィール
宮田博文
みやた・ひろふみ――昭和45年大阪府生まれ。高校卒業後、祖父が創業した宮田運輸に入社。運転士、専務などを経て平成24年社長に就任。19年には京セラ創業者・稲盛和夫氏が主宰する経営塾「盛和塾」に入塾。26年「こどもミュージアムプロジェクト」を開始。令和2年盛和塾の後継として誕生した実践経営者道場「大和」代表世話人に就任。著書に『社長の仕事は社員を信じ切ること。それだけ。』(かんき出版)がある。
編集後記
宮田運輸さんは『致知』を使った勉強会、社内木鶏会を300名近くいる全社員で実施してくださっていることから、ラッピングトラックの取り組みなどは致知出版社内でも有名でした。しかしこの度、取材で直接ラッピングトラック誕生に至った経緯、苦悩や葛藤を伺う中で、宮田社長の心の奥底からの「愛」に触れた気がします。社員を、関係者を、そして未来を生きる子供たちを幸せにしたいとの思いが溢れた取材となりました。
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