寺田一清氏を偲ぶ——現下の仕事に祈りをこめて 坂田道信(ハガキ道伝道者) 横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)

『致知』でもお馴染みの寺田一清氏が、去る3月31日、数え95歳でお亡くなりになった。国民教育の師父と謳われた森信三哲学の実践者、伝道者として多くの人にその尊い教えを知らしめた功績は計り知れない。寺田氏が生涯を通じて積み重ねたものは何だったのか。寺田氏と親交の深いお二人、ハガキ道伝道者の坂田道信氏と円覚寺の横田南嶺管長に、寺田氏の思い出を交えて語り合っていただいた。[写真:森信三先生(左)と出逢って間もない頃の寺田氏(右/38歳)]

寺田さんという人はね、勉強を積み重ね、積み重ねて普通になっていく。そして普通になればなるほど、深い人生を歩くようになっていかれた人ですよ

坂田道信
ハガキ道伝道者

 私は亡くなって初めて気がついたんですよ、寺田さんのすごさが。一緒におる時には、普通のおっさんなんだよね。全然偉そうにせんのですよ。だけれども寺田さんは、森信三先生という日本の宝物のような教育者の教えを、たくさんの人に伝える役割を果たしました。
 もともと大阪の岸和田で呉服商を営んでいて、教育とは何の関係もなかったんですが、38歳の時に恩師の勧めで森先生の全集を買い求めたのが縁で、先生と面会することになったんです。寺田さんは、初めて会った時の森先生のお話に感動して、この人こそ生涯の師と思い定め、森先生と歴史上ないような関係を築いていったんですよ。
 私も寺田さんのおかげで森先生の教えが深く理解できるようになったんです。
 私は田舎の百姓ですから、学問に用はありませんでした。その代わりに親はね、生きることを教えてくれたんです。大雪の山の中をどうしたらマッチ一本で生きられるか、大雨の中でどうやったら火を焚けるか、どんなことが起こっても命だけは存続することを教えてくれました。
 そんな私が寺田さんに出会い、森先生の教えに出合って、学問に出合えたんですよ。森先生に会っただけなら、いまの私はないんです。幸運にも寺田さんが森先生のことをいろいろ教えてくれたから、学問はこんなに楽しいものだということを理解できた。だから寺田さんは大変な恩人なんです。

寺田先生が最晩年に至った心境は、何があっても〝ハイッありがとうございます〟という絶対肯定の世界ではないでしょうか

横田南嶺
臨済宗円覚寺派管長

 こうして改めて寺田先生のことを振り返りますと、とにかく誠実・謙虚、それを一貫されたお方だったなぁと実感されます。
 知人から、寺田先生が90歳を超えてつくられた和歌集をいただいて読んでいると、立腰、腰骨を立てて生きることの大切さを詠んだ歌がいくつもございます。立腰で性根の入った人間が育つというのが森先生の教えですが、寺田先生がこの教えを最後まで強調しておられたことが分かります。
 寺田先生と対談をさせていただいた時におっしゃっていたのですが、森先生の最晩年に、21世紀の教育で何が一番大事ですかとお尋ねになったところ、森先生は即座に「それは君、立腰教育だよ」とお答えになったといいます。
 寺田先生はそれを我が師・森信三の遺訓と思い定め、白寿を迎える時まで語り続けたいと念じて、それを実行されました。やはり寺田先生が森先生から受け継がれて、生涯誠実、謙虚に貫かれたものの一つが立腰で、ご自身の中では一番の中心となる柱であったのかなと実感しました。
 それからもう一つ、森信三先生は「逆境は、神の恩寵的試練なり」「絶対不可避なる事は絶対必然にして、これ『天意』と心得べし」と説かれていますが、寺田先生が最晩年に至った心境も、何があっても「ハイッありがとうございます」という絶対肯定の世界なのではないかという気がいたします。

プロフィール

坂田道信

さかた・みちのぶ――昭和15年広島県生まれ。県立向原高校を卒業し、農業の傍ら大工見習いとなる。46年森信三先生と出会い複写ハガキを始める。ハガキによるネットワークを確立し、講演などで全国を飛び回る一方、食への関心を深め、自宅を開放した半断食、坐禅断食の会や料理教室を開催。著書に『ハガキ道に生きる』『この道を行く』(共に致知出版社)などがある。

横田南嶺

よこた・なんれい――昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』(五木寛之氏との共著)など多数。最新刊に『十牛図に学ぶ』(いずれも致知出版社)。


編集後記

『致知』や弊社書籍などを通じて、森信三師の尊い教えの伝承に尽力された不尽叢書刊行会代表の寺田一清さんがお亡くなりになりました。ハガキ道伝道者の坂田道信さんと、臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺さんに、寺田さんの人間味溢れるエピソードを交えて、残された功績について語り合っていただきました。

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