1 月号ピックアップ記事 /対談
かくて会社は蘇った ——企業再生への道のり 安東晃一(ビジョンメガネ社長) 髙見澤志和(荻野屋六代目社長)
現在、大阪府を中心に眼鏡店を幅広く店舗展開するビジョンメガネは、2013年、経営危機に陥り民事再生法の申請を行った。その僅か2週間前に社長に就任し、経営の立て直しに当たったのが安東晃一氏である。人気の駅弁「峠の釜めし」で知られる荻野屋も過剰投資による多くの負債を抱え、6代目を継いだ社長の髙見澤志和氏が再建に尽力した。共に社長として会社を蘇らせてきたお二人が、ここに至る険しい道のりを振り返りながら、その時の執念や信条を語り合う。
変わるために変えてはいけないものは何か。それを考えた時、それまでのやり方をやめてしまう必要はなくて、お客様に喜んでいただくためのサービスは伸ばしていけばいいと気づかされたんです
安東晃一
ビジョンメガネ社長
私共が安価なチェーン店に押されて経営危機に陥り、民事再生法適用を申請した時、ご支援いただいた方が、親会社の社長になったばかりの私にこうおっしゃったんです。「変わるために変えないということを大事にしなくてはいけない」と。その時の私はいままでやっていたことはすべて間違っていた、やり方を根本的に変えなくてはいけないと思っていましたので、そのひと言にハッとさせられました。
変わるために変えてはいけないものは何か。それを考えた時、それまでのやり方をやめてしまう必要はなくて、お客様に喜んでいただくためのサービスは伸ばしていけばいいと気づかされたんです。その強みを見直したことで、ビジョンメガネの今日があります。
私は「チャレンジ、チャンス、チェンジ」と言っています。何事もやってみなくては結果は出ませんし、やることによってチャンスが巡って状況も変化していく。荻野屋の136年の歴史はまさにそれだったんです
髙見澤志和
荻野屋六代目社長
最近、CSV(企業が社会的価値、経済的価値を創造すること)という言葉をよく聞きますが、それを概念に終わらせないためには会社のトップとなる人間が常に自分を成長させていく気概がないといけません。特にこのような変化の激しい時代にトップが気概を失ったとしたら、中小企業は取り残され、衰退していくのは目に見えていますから。
プロフィール
安東晃一
あんどう・こういち―昭和47年大阪府生まれ。大阪国際大学卒業。平成8年にビジョンメガネ入社。子会社の社長等を経て25年ビジョンメガネホールディングス社長に就任。同年の民事再生手続きの後、同社の年商を約50億円にまでV字回復させた。
髙見澤志和
たかみざわ・ゆきかず―昭和51年群馬県生まれ。平成12年慶應義塾大学法学部卒業。15年に荻野屋へ入社し、専務取締役を経て24年に6代目社長就任。社内改革を推進する一方、新商品の開発や首都圏をターゲットにした新規事業を展開。30年同大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。著書に『諦めない経営』(ダイヤモンド社)。
編集後記
関西で眼鏡店をチェーン展開するビジョンメガネと、群馬の人気駅弁「峠の釜めし」で知られる荻野屋は、共に経営危機を乗り越えて今日に至りました。安東晃一、高見澤志和両社長のお話から「自社製品の素晴らしさに気づく」(安東社長)、「お客様の声に真摯に耳を傾ける」(高見澤社長)という原理原則に立ち返ったことが企業再生の道を開いたことが分かります。お二人の実体験は、コロナ禍に立ち向かう多くの企業にとって一つの指針になることでしょう。
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