12 月号ピックアップ記事 /対談
渋沢栄一の生き方が教えるもの 童門冬二(作家) 守屋 淳(評論家)
生涯に481の企業経営、約600の社会事業に携わり、近代日本の礎をつくった渋沢栄一。若き日に倒幕の志士だった渋沢はやがて幕臣となり、明治政府の役人を経て実業家へと転身する。様々な変節を経たように思える渋沢だが、そこには決してぶれることのない志が貫かれていたという。作家の童門冬二氏と評論家の守屋 淳氏に、その人生や信条について語り合っていただいた。
渋沢の思いは〝論語と算盤の一致〟という言葉に尽きます
童門冬二
作家
渋沢の言う「論語と算盤の一致」というのはいい言葉ですよね。僕は渋沢の考えというのは、このひと言に収斂されているとさえ思っています。近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)も同じで、やっぱりこんなゴチャゴチャした世の中にあっても、そういう考えを取り戻すことができたら、随分社会も変わる気がしますね。
渋沢が人生で貫いたものは忠恕の精神です
守屋 淳
評論家
渋沢栄一は農家に生まれて商売をやり、長じて侍になりました。その後、官僚を経て実業の世界に入り数多くの足跡も残しています。一生でこれだけのことがやれるのは、人間としての器量の大きさを物語っているように思うんです。
パリ万博に行った時、他の侍が誰も考えない経済の重要性に気づいて、日本に帰ってそれを実行しました。そういう発想ができるのは、いろいろな経験や苦労を通して人の気持ちがよく分かるからです。これはとても重要なことで、渋沢を大成せしめた要因の一つだと私は感じます。
プロフィール
童門冬二
どうもん・ふゆじ――昭和2年東京生まれ。東京都庁にて広報室長、企画調整局長を歴任後、54年に退職。本格的な作家活動に入る。第43回芥川賞候補。平成11年勲三等瑞宝章を受章。著書は代表作の『小説上杉鷹山』(学陽書房)をはじめ、『人生を励ます太宰治の言葉』『楠木正成』『水戸光圀』(いずれも致知出版社)『歴史の生かし方』『歴史に学ぶ「人たらし」の極意』(共に青春出版社)など多数。
守屋 淳
もりや・あつし――昭和40年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務を経て独立。現在は『孫子』『論語』を中心とする中国古典をテーマとした執筆や企業研修、講演活動などを行う。著書に『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)『現代語訳 渋沢栄一自伝』(平凡社新書)など多数。
編集後記
近代日本の礎を築いた立役者の一人・渋沢栄一とは、どのような人物だったのでしょうか。作家の童門冬二さん、評論家の守屋 淳さんの対談を通して、実業家という枠では収まりきれない人物の偉容が明らかになっていきます。「論語と算盤」を体現した渋沢の生き方は、私たちの仕事や人生に大きな示唆を与えてくれます。
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