5 月号ピックアップ記事 /二十代をどう生きるか
入社式での訓辞を実践し続けたことで、人生がひらけた 數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問)
弊誌「巻頭の言葉」の執筆メンバーである數土文夫氏には、毎回古典の名言を紐解きながら含蓄に富む教えをいただいている。JFEホールディングス社長、東京電力会長などの重職を歴任された氏の視座の高さはどのように養われたのか。20代の歩みにその答えを探る。
同じ話を聞いても、何を受け止めるかは本人次第
數土文夫
JFEホールディングス名誉顧問
川崎製鉄の初代社長を務めた西山彌太郎は、松下幸之助や本田宗一郎と肩を並べるほどの実業家です。川崎重工の一部長の立場でありながら、製鉄所を臨海部につくる重要性にいち早く気がつき、世界銀行に掛け合ってまでして川崎製鉄を創業した気骨ある人物です。入社した時、西山彌太郎はまだご健在で、私たち新入社員60名に向かって語り掛けてくださった訓辞は忘れもしません。それは次の三つの内容でした。
一、会議などは必ず5分前に着席すること
遅刻はもっての外で、事前に議題を考え、自分の意見をまとめた上で会議に参加するという基本姿勢を教えられました。
二、一所懸命に勉強すること
どんな分野でも大抵3か月一所懸命に学んだら、大学で勉強するのと同じくらいの知識を得られる。入門書を3種類購入し、1週間で各3回読み込むペースで勉強して疑似専門家になれ、というのです。
三、社内外での交流をできるだけ広げること
新入社員の内、3分の2は技術職でしたが、エンジニアでも積極的に視野を広げ、自分より優れた人に学ぶ必要性を説かれました。
この3項目の重要性は年を重ねるごとに痛感していますが、還暦を迎えた頃に面白いことがありました。同期の集まりの場で私が「西山彌太郎から入社式で伺った3つの教えが社会人人生で非常に役立った」と口にすると、「どんな内容だっけ?」と誰一人として覚えていなかったのです。
そして私が3つを説明すると、「もっと早く教えてほしかった」と言うではありませんか。同じ話を聞いても、何を受け止めるかは本人次第であることを教えられた出来事でした。
[写真は20代後半、海外に出張した際の數土氏]
プロフィール
數土文夫
すど・ふみお―昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。22年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、令和元年5月旭日大綬章受章、同年6月より現職。
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