ロングセラー商品は弛まぬ挑戦によって創り出される 鈴木政次(赤城乳業元常務) 小林正典(江崎グリコ チョコレート・ビスケットマーケティング部部長)

昨年40周年を迎えた氷菓「ガリガリ君」は、年間販売本数が4億本を超える。片や1966年に発売されたチョコレート菓子「ポッキー」は、世界売上NO.1(部門別)として昨年2年連続でギネス記録に認定された。「ガリガリ君」の生みの親かつ育ての親である鈴木政次氏と、江崎グリコでマーケティングを手掛ける小林正典氏による本対談。お二人が語り合うロングセラー商品を生み出した軌跡には、仕事の要諦が余すことなく詰められている。

商品って自分の子供と同じですから、愛情を持って育てていかないとお客様から愛される商品にはなりません

鈴木政次
赤城乳業元常務

 オイルショックの頃に会社が倒産の危機に直面しました。材料費の高騰により売れば売れるほど赤字になるので、やむなく値上げしたところ今度は全く売れなくなり、二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなりました。
 1979年、当時商品開発部のリーダーだった私に、このピンチを打開するべく「赤城しぐれに匹敵する会社の柱になる新商品を開発せよ」との指令が下りました。それで2年がかりでつくったのがガリガリ君なんです。
 その頃、ファストフードが次々に日本に入ってきた頃だったので、ワンハンドで気軽に食べられるアイスにしようというコンセプトだけはありました。ただ、それまでカップだった商品をバーにしただけだったら、問屋さんから安売りしろと値切られるのがオチですので、当初から既存の売れ筋フレーバーは絶対に使わないと自分の心に誓っていました。
 それでどうなったかというと、残っているのは売れない味ばかりですので、味が決まらず悩みに悩んで円形脱毛症になり、自殺寸前にまで陥りました。人間っておかしなもので、追いつめられると逆に頭が冴(さ)えてくるんです。
 その時も自分の中にいるもう一人の自分が、「おまえは自分の業界しか見ていないじゃないか」って言うんですよ。それで冷静になってアイス業界以外に目を向けると、飲料業界で不滅のナンバー1商品があったんです。それがサイダーとかラムネでした。そこから着想を得て、ガリガリ君のソーダ味が誕生したんです。

リーダーは上下関係や立場を越えて、共感によってチームを導ける人でなければいけないと考えています

小林正典
江崎グリコ チョコレート・ビスケットマーケティング部部長

 同じくマーケティングを行う身として非常に勉強になるお話です。いまのお話に比べると大分トーンが落ちますが、私が2010年にチョコレート部門の担当課長になった時、6年後に50周年を控えた江崎グリコのロングセラー商品「ポッキー」の大幅なテコ入れを命じられました。
 ガリガリ君もそうだと思いますが、既に認知率が高く、ほとんどの方が一度は食べた経験のある商品の売り上げを伸ばすことは簡単ではありません。ポッキーは1980年代に「旅にポッキー」キャンペーンを実施したり、ポッキーをマドラー代わりにする「ポッキー・オン・ザ・ロック」を提唱するなど、新しい食べ方を提案して売り上げを大きく伸ばした成功体験がありました。
 私が担当した時に一番の課題だったのがブランドの高齢化、ターゲットの持ち上がりでした。1980年代によくポッキーを購入してくれていた女子高生層がお母さん世代になり、子供と一緒に食べるおやつというイメージがつきすぎてしまっていたのです。そこでもう少し若い世代や大人世代にも購入していただくためのマーケティング戦略を考えました。

プロフィール

鈴木政次

すずき・まさつぐ―昭和21年茨城県出身。45年東京農業大学卒業後、赤城乳業株式会社に入社。1年目から商品開発部に配属される。その後一貫して商品開発、営業に携わり、「ガリガリ君」「ガツン、とみかん」「ワッフルコーン」「BLACK」など数々のヒット商品を生み出し、国民的ロングセラーに育て上げた。現在、講演活動も幅広く展開し、「講演依頼.com」の依頼ランキングで殿堂入りを果たす。著書に『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』(ワニブックス)がある。

小林正典

こばやし・まさのり―昭和46年大阪府生まれ。平成6年新卒で江崎グリコに入社。9年間営業職に従事後、マーケティング職へ異動。3年後に「おつまみスナック」という新ジャンルを生み出す。チョコレート部門に異動後は、売り上げが横ばいだった定番商品「ポッキー」の売り上げを5年間で50億円伸ばした他、数々のヒット商品を手掛けた。著書に『結果を出すのに必要なまわりを巻き込む技術』(ポプラ社)がある。


編集後記

年間四億本売れる「ガリガリ君」の生みの親である鈴木政次さんと「ポッキー」の売り上げを五年間で50億円も伸ばした小林正典さん。お二人は初対面にも拘(かかわ)らず、意気投合され、対談は大いに盛り上がりました。ヒット商品やよいアイデアを生み出す秘訣とは一体何でしょうか。

2022年4月1日 発行/ 5 月号

特集 挑戦と創造

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