かくして途上国に希望の光を灯してきた 吉岡秀人(特定非営利活動法人ジャパンハート創設者/小児外科医) 山口絵理子(マザーハウス社長兼チーフデザイナー)

国際医療NGO「ジャパンハート」を率い、医療が十分に行き届いていないアジアの途上国で無償の医療活動を30年以上続ける吉岡秀人氏。途上国で生産した高品質なバッグやジュエリーを日本国内外で販売するファッションブランド「マザーハウス」を創業し、途上国の秘めた可能性を引き出してきた山口絵理子氏。医療支援と経営――歩んできた道は違えども、途上国に希望の光を灯してきたお二人に、これまでの苦難の道のり、活動に懸ける思いを語り合っていただいた。

大切なのは、自分の執着を手放すこと。
自分が手放したことはどんな形であれ必ず返ってくる

吉岡秀人
特定非営利活動法人ジャパンハート創設者/小児外科医

〈山口〉 
きょうは尊敬する吉岡さんとの対談が実現して、とても嬉しく思います。私がデザインを手掛けたシャツまで着ていただけるなんて、大変光栄です。

〈吉岡〉 
僕も山口さんとお話しするのを楽しみにしていました。

〈山口〉 
吉岡さんに初めてお目にかかったのは、吉岡さんの講演会に一聴衆として参加した時でした。吉岡さんの言葉からは現場の緊張感がひしひしと伝わってくる感覚があって、一人で泣いてしまいました。あれはいつ頃でしたかね?

〈吉岡〉 
確か2年前、都内のホテルで行われたチャリティパーティーだと思います。

〈山口〉 
そうでした。それから2025年のミャンマー大地震の際には、会社としてジャパンハートさんに寄付をさせていただきました。

〈吉岡〉 
その節はありがとうございました。実は、僕は前々から山口さんを存じ上げていました。様々なテレビや雑誌で取り上げられていましたから。いわば、女性社会起業家のはしり。この人の後ろに次々と女性起業家が現れるんだろうなと思わせられました。

また、山口さんは社長でありながらデザイナーで、僕も自ら手術をやるじゃないですか。そういう意味では、組織を率いながらもベースは職人という点で共通しています。山口さんの活動に自然と惹きつけられるのは、職人としての山口さんに共感したのでしょうね。

辛い状況だからといって歩みを止めてしまうのではなく、アクションし続けることで現実は変えられる

山口絵理子
マザーハウス社長兼チーフデザイナー

〈山口〉 
まさに、私にとって吉岡さんは手仕事の先生というイメージが強くありました。初めてランチさせていただいた時、私が一人で何千個もデザインしている現状を踏まえ、どうすれば組織全体の技術レベルを上げられるのでしょうかと相談したところ、吉岡さんはこうおっしゃったんです。

「たとえ60点、70点でも、どんどん広げていくことが大事」

その言葉を聞いて、肩の力が抜けたんですよね。それまでは、アシスタントに対して「なぜここまでできないんだ」と憤っていましたけど、いまでは60点を65点にしようと思えるようになりました。本当に感謝しています。

〈吉岡〉 
途上国の医療事情は50年前の日本のような状況なんですよ。そこに最先端技術を持つ日本人が行くわけですから、普通にやれば活躍できる。ところが、衛生環境をはじめとした現代日本の常識や観念も一緒に持ち込んでしまうが故に、過度にリスクを意識して立ち止まる人が非常に多いんです。

何か行動しなければ、人は助けられないし改善も起こらない。60点、70点でもいいから、前に進んで点数を上げていくことで、道は開けると思います。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇「60点、70点でも広げていくことが大事」
◇この世界に幸せを増やす ベストオブカントリーをつくる
◇単身途上国に飛び込んで見えたもの
◇救いの手を差し伸べられるのは自分しかいない
◇「この地に希望の光を灯したい」
◇誰かの力になりたい その思いこそがサステナブル
◇経営もデザインもすべて繋がっている
◇命に向き合う中で掴んだ人生の真理
◇アクションし続けることで現実は変えられる
◇手術の最中に襲ったM7.7の大地震
◇理想と情熱を長続きさせる3つのポイント

プロフィール

吉岡秀人

よしおか・ひでと――昭和40年大阪府生まれ。大分医科大学(現・大分大学医学部)卒業後、大阪・神奈川の救急病院などで勤務。平成7年からミャンマーに渡り医療活動を開始。その後一度帰国し、岡山病院小児外科などを経て、15年から再びミャンマーで医療活動に従事。16年国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」を設立、代表に就任。29年より最高顧問に就任。令和3年第69回菊池寛賞受賞。著書に『やりたいことがわからないあなたへ』(さくら舎)『救う力』(廣済堂出版)など多数。

山口絵理子

やまぐち・えりこ――昭和56年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、米ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。平成18年マザーハウスを設立、社長に就任。現在、バングラデシュをはじめとした6か国の自社工場・提携工房でジュート(黄麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・開発・生産を手掛ける。著書に『裸でも生きる』『裸でも生きる2』(共に講談社)など多数。


編集後記

ジャパンハート創設者の吉岡秀人さんとマザーハウス創業者の山口絵理子さんの取材は9月7日、都内ホテルにて行われました。お2人は「途上国で苦しむ人々を助けたい」という思いから、たった一人で活動を開始。幾多の困難を乗り越え、多くの人々に夢と希望を与えてきました。挫折や試練をいかに受け止め、前進し続けられるか。夢を実現させる秘訣がそこにあると感じます。

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