11 月号ピックアップ記事 /対談
一念を抱き続ければ夢は実現する 荒木水都弘(「あら輝」店主) 木村泉美(「大工町鮨人」店主)

「日本一予約の取れない鮨店」として名高い東京赤坂の「あら輝」。いまも半年待ちの名店である。店主の荒木水都弘氏(写真左)を鮨職人の手本として仰ぎ、鮨道を歩き続けるのが金沢の「大工町鮨人」店主・木村泉美氏(写真右)。木村氏は荒木氏が出演したテレビ番組のビデオを擦り切れるほど視聴、独学で技術を身につけた業界の異端児でもある。共にミシュランを獲得したこの道のプロに、夢を抱いて一道を歩み続けた今日までの歩みを振り返っていただいた。

大事なのは自分の心に嘘偽りなくやっているかということです。結局、目に見えるものより目に見えないもののほうが、1年後、10年後を決める。だけど、いまはそれが分からないんです
荒木水都弘
「あら輝」店主
〈木村〉
どうも。荒木さん、ご無沙汰しています。
〈荒木〉
お久しぶり。
〈木村〉
少しスマートになられたのではないですか。
〈荒木〉
ちょっと痩せたかな(笑)。
〈木村〉
僕はきょうこの日をずっと心待ちにしてきました。22年前、まさか荒木さんと対談できる日が来るなんて思ってもみませんでしたから、僕にとっては本当に夢のようです。
荒木さんが出られた『情熱大陸』(TBS系列のドキュメンタリー番組)を見たのが2004年。その数年前、僕は富山で鮨店を始めたものの僅か1年で閉店し、他の仕事をしながら再起のチャンスを窺っていました。そんなタイミングでこの番組を見て、言葉にできないほどの衝撃を受けたんです。荒木さんの鮨職人としての技術、発する言葉、目線、立ち居振る舞い。そのすべてに圧倒されたのはもちろんですが、それ以上に折れかかっていた心、諦めかけていた心、夢を失いかけていた心に大きな力を与えていただきました。
それからというもの録画したこのビデオを、おそらく何万回と擦り切れてしまうほど繰り返し見て、最後は本当に切れてしまいましたけど(笑)、そのくらい励みにしてきました。一方通行でしたが、これまでずっと荒木さんを追いかけてきたんです。

僕自身はいまを一所懸命生きる、それ以外にないと思っています。きょう目の前に来た魚と懸命に向き合い、来店くださったお客様に真心を込めて向き合って楽しんでいただく。そのいまがあってこそ、明るい未来が開ける
木村泉美
「大工町鮨人」店主
〈木村〉
荒木さんはロンドンや香港で開業された後、2024年に日本に帰って東京・赤坂で「あら輝き」を再開業されました。あれから2年ですね。
〈荒木〉
はい。僕はいま人生の総括の時期だと思っています。と同時に新たなチャレンジの時期でもあると。
というのは、「世界で勝負したい」と2014年に日本を出てロンドンに、2017年に香港に進出し、ありがたいことに両国でもミシュランを獲得できました。だけど、日本に帰ってくるまでの10年間、日本では志を持った若い鮨職人さんが成長し、それぞれに鮨の世界をつくり上げていた。僕はある意味、新参者なわけで、限られたパイの中で果たして生き残っていけるのかという闘いの毎日がいまも続いているんです。
ただ、僕にとっての日常はそういう連続性の上にあるとしても、お越しいただくお客様にとってはそうじゃないわけですよ。一期一会なんですね。お客様の気持ちにいかに自分の心を投影していくか。それこそ鮨職人としての醍醐味であり、素晴らしい仕事だなとつくづく思います。鮨が天職と思えるようになったのは、本当にここ数年のことですね。
~本記事の内容~
◇出会いが人生を大きく変える
◇目に見えないものが未来を決める
◇海外に出て知った鮨の人気
◇苦しいことをやるのは幸せを実感したいから
◇「人間関係はシンプルイズベスト」
◇繁盛店を閉鎖し鮨一本に懸ける
◇「親方を越えたい」その一心で生きてきた
◇夢は言葉に出してこそ実現する
◇世界を変えられるのは狂気を持った人物
プロフィール
荒木水都弘
あらき・みつひろ――昭和41年福岡県生まれ。25歳で鮨職人の道へ。「寿司いずみ」で修業し、「きよ田」の二代目親方、新津武昭氏に師事。平成12年世田谷区上野毛で「あら輝」を開店する。22年に銀座に移転した後2年続けて三つ星を獲得。ロンドン出店中の28年二つ星を獲得。29年、30年には欧米の鮨・日本料理で初の三つ星に輝く。令和3年香港で一つ星を獲得。6年活動の場を日本に移し、赤坂に「あら輝」を再オープンする。
木村泉美
きむら・いずみ――昭和43年東京都生まれ。少年期は富山県で生活し、20歳で上京。独学で鮨の技術を学び、平成18年富山市内に「鮨し人」をオープン。素材のおいしさを科学的に研究するなど独自の技術を極め、全国から人が集まる人気店となる。令和3年ミシュラン一つ星を獲得。同年からスシローとのコラボでメニューを共同開発。令和7年拠点を富山市から金沢市に移し「大工町鮨人」をオープン。
編集後記
共にミシュランの星を獲得した鮨職人の荒木水都弘さんと木村泉美さんに〝鮨道〟に懸ける半生を語り合っていただきました。荒木さんは「日本一予約が取れない鮨屋」として知られる「あら輝」の経営者。「大工町鮨人」の木村さんは、荒木さんが特集されたテレビ番組のビデオテープを何万回と見るなど、独学で技術を習得した業界の異端児です。荒木さんを手本として一途に歩み続けた木村さんが、目を潤ませながら荒木さんと語り合う姿が印象的でした。

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