前人未到の地平を拓く ~不可能を可能にする生き方~ 金出武雄(カーネギーメロン大学創始者記念全学教授) 浅川智恵子(日本科学未来館館長)

ここに、人々を驚かせ、世界に貢献する技術を開発してきた二人の科学者がいる。幼き日にものづくりに目覚め、数々の発明でロボット工学の世界的権威となった金出武雄氏。失明という境遇を発想の源として、移動や情報における視覚障碍者の不自由を解消へと近づけてきた浅川智恵子さん。互いに啓発し合う師弟である両人の考え方・生き方に、夢を現実にする秘訣を探る。

よい研究を成功させるには夢がなくてはいけない。でも、夢を実現するには努力が要る。その力がどこから出てくるかというと、僕は人だと思います

金出武雄
カーネギーメロン大学創始者記念全学教授

〈浅川〉
きょうは関西からお越しいただき、ありがとうございます。ちょうどよい機会だったので早速、AIスーツケースを体験していただきました。

〈金出〉
目を瞑った状態で、きちんと館内の目的地まで連れていってもらいました。前に実物を見せてもらったけれど、初めて実際に使ってみて、着実に進歩しているな、というのが一番の感想です。

取っ手を握って、行きたい場所を伝えると、センサーが周囲の人通りや障害物を知覚して進んでくれ、前に人がいたり、段差があると知らせてくれる。感心しました。

〈浅川〉
ありがとうございます。

開発を始めてもう10年になります。アメリカのカーネギーメロン大学(CMU)の客員教授だった頃、学生たちと最初の試作品をつくりました。形が縦に長い分、フラフラして、安定させるにも苦労しました。本当によちよち歩きの赤ちゃんからの出発でしたね。

私はこれまで「一度選んだ道は最後までやり遂げる」ことを常に心がけてきました。その確固たる意志が、人を巻き込む力になるんじゃないでしょうか

浅川智恵子
日本科学未来館館長

〈金出〉
去年の大阪万博でも注目されていましたね。

〈浅川〉
半年間、夏の暑い中もほぼ毎日運用しました。会場の東門から2km以上、使用者をきちんとナビゲーションして走破できたんです。ただ、会場が混み過ぎていて、停止してしまう場面があったことが悔やまれますが、楽しかったです。

万博では「浅川さん!」って声をかけてくださる方もいました。私はお顔が分からないので「すみません、お会いしたことありますか」とお聞きしたら、「テレビで観ました。AIスーツケースが普及したら、すごく便利になりますね!」と。

嬉しかったです。新しい技術を社会に実装するためには、皆さんの理解が必要ですから。その第一歩として、非常に意義の大きい半年間でした。

〈金出〉
さっき一緒に歩いてみて、これは非常に奥が深いと感じましたね。人
間は単に障害物や段差の有無といった三次元の判断だけではなく、より高次元の、どこをどういうふうに歩きたい、こう行きたいという意図を持って歩いているわけです。自分が目の見えない人と歩く時、一心同体になって相手の気持ちを考えないと、本当の助けにはならない。

そういう人間の感覚を、AIスーツケースというロボットとどう共有していくか。これは一つの道具の研究ではない、ロボットと人間の共存という非常に大きな研究だと認識を改めました。……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇大阪万博で実証されたAIスーツケースの力
◇衝撃的な出逢いを果たして
◇イノベーションは失敗の先にある
◇悩みの底で教わった研究の本質
◇14歳で失った視力と夢
◇誰かが決めた未来を受け入れない
◇世界初の自動運転車で米大陸横断
◇世界中から喜ばれたホームページ・リーダー
◇独創は閃くものではない
◇AIスーツケース着想の原点
◇共に一から実用化の道を拓く
◇夢が現実になる人の条件

プロフィール

金出武雄

かなで・たけお――昭和20年兵庫県生まれ。京都大学工学部電子工学科、同大学大学院博士課程修了。同大学助教授を経て55年カーネギーメロン大学に招聘される。平成4~13年同大学ロボティクス研究所所長。米国国家研究評議会航空エンジニアリング委員会委員、NASA先端技術諮問委員などを歴任。アメリカ工学アカデミー特別会員。26年京都賞、令和元年文化功労者ほか受賞多数。著書に『独創はひらめかない』(日本経済新聞出版)がある。

浅川智恵子

あさかわ・ちえこ――大阪府出身。11歳の時の事故が原因で14歳で失明。昭和60年日本IBM東京基礎研究所に入社。平成16年東京大学工学系研究科先端学際工学専攻にて博士(工学)取得。21年IBMフェロー。25年紫綬褒章受章。26年米カーネギーメロン大学IBM特別功労教授を兼務。令和元年全米発明家殿堂入り。3年4月日本科学未来館館長就任。8年4月より慶應義塾大学理工学研究科特任教授。著書に『見えないから、気づく』(ハヤカワ新書)がある。


編集後記

今月号の表紙を飾るのは、不慮の怪我により14歳で失明するも、視覚障碍者の生活を劇的に変える技術を開発してきた浅川智恵子さん。
その浅川さんが〝人生の恩師〟と仰ぐ人がいると伺い、ロボット工学の世界的権威・金出武雄さんとの対談が実現しました。
まさに不可能を可能にしてきた二人には、年齢や身体のハンディを微塵も感じませんでした。
独創を生む人の共通点、夢を現実にする条件が当意即妙に語られ、夢に挑戦するエネルギーが湧いてくる対談です。

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