10 月号ピックアップ記事 /エッセイ
人生の主役は自分 ~小出義雄監督と共に歩んで~ 有森裕子(元女子マラソン日本代表)

陸上女子長距離の指導者として、数々のメダリストランナーを育てた名伯楽・小出義雄監督。その小出監督から薫陶を受け、バルセロナ五輪で銀メダル、アトランタ五輪で銅メダルを獲得し、マラソン界で日本人女性初となる2大会連続のメダルに輝いたのが、有森裕子さんである。先天性の股関節脱臼を抱え、学生時代は無名だった有森さんは、小出監督との邂逅を果たし、いかにして自らの運命を切り開いてきたのだろうか。その努力奮闘の競技人生に迫る。
物事には必ず意味がある。〝なんで〟故障したんだろうと思うな。どんなことが起きても、〝せっかく〟と思え
小出義雄(こいで・よしお)
昭和14年千葉県生まれ。高校卒業後、苦学の末に36年、22歳で順天堂大学入学。千葉県立佐倉高校、市立船橋高校などで教鞭を執った後、リクルート・ランニングクラブ、積水化学女子陸上競技部監督を務める。平成14年に佐倉アスリート倶楽部を設立。31年4月24日逝去。著書に『君ならできる』『へこたれるもんかい』(共に幻冬舎)など多数。

たとえマイナスな出来事でも、〝せっかく〟と思えばポジティブに転換できる。
この小出監督の言葉を反芻するうちに少しずつ前向きに考える癖がつき、怪我から逃げずに向き合えるようになったと思います
有森裕子
元女子マラソン日本代表
1992年のバルセロナ五輪、1996年のアトランタ五輪で私をメダル獲得に導いてくださった小出義雄監督が亡くなり、今年で7年が経過しました。月日の流れは早いものだと驚くばかりです。
私は2025年6月、五輪メダリストとして初めて日本陸上競技連盟の会長に選出されました。後進の育成や組織運営に取り組む中で、私の現役時代とは選手の質も、指導者の質も格段に高まっていることを感じます。ただ一つ確かなのは、小出監督の時代があって初めていまがあるということ。そういう意味では、監督はいまの日本マラソン界の基礎を打ち立てた一人であると実感します。
監督が遺した功績の一つは、技術のみならず、人としてどうあるべきかに焦点を当てたことでしょう。破天荒な一面もあった一方で、礼儀作法や他者への思いやりに関しては人一倍厳しい人でした。世界と渡り合う選手が増えている現在だからこそ、人としてのあり方が以前にも増して問われているのではないでしょうか。
何より、監督はかけっこ大好き人間でした。生活の中心に走りがあり、いつも選手のことを考えていたので、この人についていけば間違いないと信じることができました。いま陸上界を引っ張る立場として、思いを持って指導する大事さを教えてくれた監督の存在が1つの指針になっています。
小出監督が肺炎でこの世を去ったのは2019年4月24日でしたが、……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇日本マラソン界の基礎を打ち立てた名伯楽
◇諦めない心の原点
◇根拠のないやる気でつかんだリクルート入社の切符
◇「きつい顔はしていい。でも、嫌な顔はするな」
◇〝なんで〟と思うな 〝せっかく〟と思え
◇いい人と出逢えるかではなく、出逢った人から何を学ぶか
プロフィール
有森裕子
ありもり・ゆうこ――昭和41年岡山県生まれ。平成元年日本体育大学を卒業後、リクルートに入社。小出義雄監督の指導のもと、研鑽を積む。バルセロナ五輪女子マラソン銀メダル、アトランタ五輪女子マラソン銅メダルを獲得。8年日本人ランナー初のプロ宣言。10年NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」設立、代表理事就任。19年現役引退。27年モニサラポン・マハーセレイワット勲章。令和7年女性初の日本陸上競技連盟(JAAF)会長に就任。著書に『やめたくなったら、こう考える』(PHP新書)『わたし革命』(岩波書店)など多数。
編集後記
マラソン界の名伯楽・小出義雄監督の指導を仰ぎ、1992年バルセロナ五輪で銀メダル、1996年アトランタ五輪で銅メダルを獲得した有森裕子さん。時に衝突しながらも、同じゴールに向かって走り抜けた2人の足跡から、単なる師弟関係を超えた強い絆が伝わってきました。

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