7 月号ピックアップ記事 /インタビュー
国産麻の存続なくして日本文化は守れず 大森芳紀(ジャパン・ヘンプ・クリエーション代表/野州麻紙工房代表)

古来、神事や祭礼に欠かせないしめ縄、鈴緒などの材料として重宝されてきた日本の麻。時代の変遷に伴い、かつて3万人いた生産者は20人程度に激減した。その逆風の中、栃木県の山間の地で、麻に新たな命を吹き込み続ける人がいる400年以上の歴史を持つ麻農家の八代目・大森芳紀氏だ。麻文化の復活は、日本文化の復興に繋がる――麻の可能性を追究してやまない氏の使命感に迫る。

麻を育てる中で、何があっても折れないで続ける大切さを教わってきました。自分が麻を育てているのではなくて、自分が麻に育てられていたんです
大森芳紀
ジャパン・ヘンプ・クリエーション代表/野州麻紙工房代表
――国内最大の麻産地である栃木県鹿沼(かぬま)市で400年以上続く麻農家を継ぎ、日本古来の麻文化を生産者として守り続けている方がいると知り、やってまいりました。
〈大森〉
ここ鹿沼市は国産の麻(精麻)の9割を生産していますが、見ての通り山に挟まれた谷間のような地形でしてね。家業が400年続いてきた理由を考えると、この「地の利」が大きいと思います。
谷間ですから畑を広げる面積は限られますし、土に小砂利が多くて、農地としては痩せています。野菜の栽培にはあまり向きません。
しかし、まず天災のリスクが低いですね。麻は、育つと人の背丈を超えて3メートルにもなるので、強風に揉まれると編んだように倒れるんですよ。台風が来ても、平地と違って直撃しにくいこの地域は非常に守られています。
それと、麻は土が肥沃だと伸びすぎ、倒れて傷つくリスクも増します。この辺の土壌は適度に痩せていて砂利が多く、麻が好むミネラルが豊富です。これも400年続いてきた要因でしょうね。
――大森さんは八代目だそうですが、家業の起こりはどういう経緯だったのですか。
〈大森〉
残念ながら過去帳が火事で焼けてしまっていて、よく分かりません。分かるのは400年、麻をやりながら様々な挑戦をしてきたということ。ある時は麻とタバコ、ある時は麻と養蚕、麻と質屋……麻づくりは人が手を尽くしたら、後は人には選べない天候との闘いです。すべて、何があっても麻を続けるためにやってきた。こういう歴史だけは聞いています。
日本人と麻は、知れば知るほど深い関係にあります。神棚や神社に飾るしめ縄、鈴緒の素材として麻は昔から重宝されてきましたし、弓道なら弓弦、相撲道なら化粧まわしと、「道」がつく世界では未だ至るところに見られます。漁業者が船に麻を「船霊」として飾る地域や、「安房神社」のように麻を祀っている神社もありますよ。
――切っても切れない関係にある。
〈大森〉
はい。ただ、1950年代に全国で3万人いた麻の生産者は、戦後の政府による規制や安価な中国産の麻、ビニール素材の流入によって、2021年には27人まで減ってしまいました。しかもほとんどが高齢者です。日本には神社が8万社あると言われますが、そのうち国産麻のしめ縄や鈴緒を使っているところはもう1%程度しかないと言われます。
最近は神職さんの中にも、本来の原料である麻を知らない、「麻って国産があるの?」という方もいらっしゃいます。何とかこれを本来の国産に戻したい。その使命感で仕事に向き合っています。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇日本の麻づくりを繋ぎ止めて
◇麻づくりは手をかけて心で覚える
◇麻の可能性を極限まで引き出す
◇麻は天からの授かりもの
プロフィール
大森芳紀
おおもり・よしのり――昭和54年栃木県の麻農家に生まれる。平成9年作新学院高等学校美術デザイン科卒業後、環境美術会社に入社。12年実家に戻り就農。農閑期に熊本へ紙漉き修業に出る。13年野州麻紙工房設立。18年Cafeギャラリー納屋を併設。26年野州麻炭製炭所設立。令和3年㈱ジャパン・ヘンプ・クリエーション設立、代表取締役就任。
編集後記
神道や武道、日本に長く伝わる「道」の世界で、古くから重宝されてきた国産の麻が、存続の危機に瀕している――。まずその事実に驚くと同時に、この麻栽培の伝統の衰退を水際で食い止め、新たな可能性を提示し続けているのが大森さんです。取材は鹿沼市の工房で行いました。澄み切った空気に包まれながら伺った、大森さんの訥々とした語りの中には、言葉にならない麻への情熱を感じました。日本人が忘れつつある、大切なことを思い出させてくれる取材でした。

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