最後まで諦めず進化し続ける ~医師の使命に生きて~ 大岩孝司(さくさべ坂通り診療所元院長) 安福和弘(トロント総合病院呼吸器外科部門チェアマン)

がんの中でも完治が難しく、最も死亡数が多い肺がん。いま呼吸器治療の世界の精鋭が集うカナダ・トロント総合病院で、最先端のがん治療に挑む医師がいる。安福和弘氏、60歳。累計執刀数は5,000例を超え、死亡率0.03%と驚異の実績を持つ。その氏が生涯の師と仰ぐ人物、それが元呼吸器外科医にして、在宅緩和ケア専門の診療所を開業、2,000人以上の人生を見届けてきた大岩孝司氏だ。己の使命を追究し、進化し続ける両氏が見据えるものとは。

一度自分で決めたことは最後までやり通す。苦しい場面もありますが、無理をしてでも何か形にしていくことです。
最後まで諦めず、妥協せずに進化し続ける。それが道をつくることなんじゃないでしょうか

安福和弘
トロント総合病院呼吸器外科部門チェアマン

対談は安福氏の一時帰国に合わせ、羽田空港のホテルにて行われた。会場前のロビーにて、両氏は6年ぶりの再会を果たされた。

〈大岩〉
おっ、安福(やすふく)。

〈安福〉
ああ、お久しぶりです。

〈大岩〉
遠目でもすぐ分かったよ。学会で帰って来たんだって?

〈安福〉
ええ。北海道で外科学会があって、2日前に。この後、母や姉と食事して、夕方の便でまたカナダに発つ予定です。大岩先生もお元気そうで何よりです。

〈大岩〉
実は5年前、脊椎管狭窄症で足の痛みが酷くなって、20年続けてきた在宅緩和ケアの仕事が難しくなってね。2022年に診療所をお休みして専ら若手緩和ケア医との勉強会や講演の日々でした。昨年も日本内科学会、死の臨床研究会でのシンポジウムに参加して、緩和ケア、在宅医療についての発表をしてきました。

だから事前に送ってくれた、カナダ国営テレビのドキュメンタリーで安福の活躍を見て、久しぶりにワクワクした。私が外科医の頃とは世界がまるで違うと。

〈安福〉
ありがとうございます。

医療というのは常に正解はありません。ある意味、不確実です。だから、わが師は患者である。常にそれを頭に置いて、正しい道を探って、1ミリであっても近づけるように歩み続けること。それが使命

大岩孝司
さくさべ坂通り診療所元院長

〈安福〉
大岩先生と初めてお会いしたのは1997年、私が31歳の時でしたね。千葉大学病院で呼吸器外科に入局してから5年目でした。同じ県内の松戸市立東松戸病院で、医局の一匹狼としてガンガン手術をしている先輩がいると知って、研修を志願したんです。

〈大岩〉
私は50歳手前で、外科部長と診療局長を兼務していました。東松戸病院はその4年前に開院したばかり、呼吸器外科は私一人だったところに安福が来てくれた。二人で肺がん手術を年に40例以上、他の疾患を含め開胸手術は150例前後やりました。全国屈指の数字だったと思いますよ。

〈安福〉
朝早くに出勤して、終わるのは本当に遅かったですね。

〈大岩〉
うん、日付が変わる前に帰ることは滅多になかったな。

〈安福〉
当初、自分は医師5年目で、もうある程度一人前にできると思っていました。ところが、先生と入った一例目の手術で叩きのめされました。自分が知らない術式を指定されたんです。患者さんを前に降参はできませんから、必死で食らいつきましたよ。

それからも、慣れてきて自惚(うぬぼ)れが出たのを見計らうようにご指導をいただいて、いかに自分が甘かったかを思い知りました。手術をどう組み立て、どのスタッフに何を頼むか。このやり方がダメならこう手を打つ……こういう手術の展開を、外科医は手術室に入る前にすべて頭に描いておく必要がある。何より外科医としての心構え、考え方を徹底的に教えていただきました。僅か2年間ながら、私の人生を変えてくださったのが大岩先生だと思っています。……(続きは本誌をご覧ください)


本記事の内容 ~全10ページ~
◇世界トップ外科医は〝心地いい頑固者〟
◇医師としての高みを目指し続ける
◇住み慣れた家こそがその人の天国
◇後悔の涙は二度と流さない
◇悔しさが次の進歩を生む
◇患者さんこそが先生である
◇肺がん治療の次元を根底から変える
◇30年、カナダでも取り続ける手術ノート
◇身一つで始めた無床の診療所
◇不測の事態でも絶対に諦めない
◇続けることが進化の道

プロフィール

大岩孝司

おおいわ・たかし――昭和22年東京都生まれ。47年千葉大学医学部卒業、同肺癌研究施設外科部門勤務。以後、国立佐倉病院、結核研究所附属病院、鎗田病院などで主に肺がん診療に従事する。平成5年松戸市立東松戸病院外科部長。14年さくさべ坂通り診療所開業。令和4年同診療所を閉院、現在は緩和ケア、在宅医療の医学としての完成形を目指して研究を続けている。著書に『がんの最後は痛くない』(文藝春秋)など多数。

安福和弘

やすふく・かずひろ――昭和40年兵庫県生まれ。7歳から15歳までアメリカで過ごし、平成4年千葉大学医学部卒業、千葉大学附属病院勤務。8年より松戸市立東松戸病院にて研修。11年インディアナ大学医学部に留学。帰国後、千葉大学大学院で医学博士号を取得する。18年トロント総合病院に留学、20年同院で日本人初の正式採用に至る。現在、呼吸器外科部門チェアマン。


編集後記

「求道者」─在宅緩和ケア医として2,000人の人生に伴走してきた大岩孝司さんと、世界最高峰の呼吸器外科医の一人である安福和弘さんの対談取材を終えての印象です。師弟たる両者の共通項は、病と対峙しつつ〝患者さんが人生という物語を生き抜くお手伝い〟の意識で自己を磨いてこられたこと。各々が胸に刻む患者さんの生き方を含め、最後まで諦めず進化し続けることの尊さを教えられます。

2026年6月1日 発行/ 7 月号

特集 続けてこそ道

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる