7 月号ピックアップ記事 /エッセイ
小径によらず大道を歩め 【漢学者・諸橋轍次が貫いた信念】 嘉代隆一(諸橋轍次記念館前館長)

戦争や失明など様々な困難を乗り越え、実に33年の歳月をかけて『大漢和辞典』全13巻を完成させた漢学者・諸橋轍次博士。漢字の母国・中国でも類のない前人未到の大事業といってよい。諸橋轍次記念館館長として、その顕彰に尽力してきた前館長・嘉代隆一氏に、諸橋博士が『大漢和辞典』の編纂にかけた執念の歩みを語っていただいた。
目上の方への敬いの心を失ってはならない。
上司に提言して意見が通らなくても一度目は退きなさい。二度目で通らない時も退きなさい。三度目にダメだったらもう一度挑戦し、その時はしっかりと自分の気持ちを伝えなさい
諸橋轍次(もろはし・てつじ)
明治16(1883)年~昭和57(1982)年。新潟県出身。東京高等師範学校卒業。東京文理科大、國學院大、大東文化学院の教授、都留文科大学長などを歴任。また静嘉堂文庫長、宮内省御用掛を務めた。昭和のはじめから『大漢和辞典』の編纂にあたり昭和35年全13巻を完成させた。昭和40年文化勲章。©諸橋轍次記念館

諸橋博士は『論語』の「行くに径(こみち)に由(よ)らず」という章句は好んで揮毫されました。物事を為すのに正々堂々とした歩みをせよ、との教えですが、枝葉末節にとらわれずに基本をしっかり身につけよ、という解釈もできます。
嘉代隆一
諸橋轍次記念館前館長
いまではその名を知る人が少なくなりましたが、戦中、戦後の激動期を含めた33年の歳月をかけて『大漢和辞典』13巻を完成させた漢学者がいます。漢字数約5万字、語彙数約52万語。漢字の母国・中国でも類を見ない大辞典の編纂に文字通り命を懸け、学界にも大きな影響を与えたのが、我が郷土・新潟県三条市出身の諸橋轍次博士(1883~1982)です。
私は縁あって2016年から8年間、諸橋轍次記念館の館長・顧問を務め、記念館の運営やイベント、講演などを通して微力ながらその偉業の顕彰に努めてきました。一方で諸橋博士の足跡を日々学ぶにつれて、誰もが挫けてしまうような大変な苦難を乗り越え、前人未到の足跡を残した博士の執念に驚くことも度々でした。
1953年、三条市に生まれ、この地で育った私にとって諸橋博士は、子供の頃からどこか身近な親しみのある存在でした。私が卒業した荒沢小学校は博士が1896年に卒業された四ッ沢村尋常小学校の後身で、博士はいわば大先輩に当たります。四ッ沢村尋常小学校の初代校長は、博士の父君諸橋安平氏で、氏はその後、学校制度の改編や隣村との併合など幾多の変遷を経ながらも、この地を離れることなく教育者として40年余り、この地の教育に尽くされ、地域の人たちから慕われました。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇幼き日に見た好好爺の面影
◇辞典の必要性を痛感した中国留学
◇想像を絶する困難からの再起
◇「行くに径に由らず」
プロフィール
嘉代隆一
かしろ・りゅういち――昭和28年新潟県生まれ。三条市役所勤務を経て平成28年から8年間諸橋轍次記念館館長・顧問として館の運営や博士を顕彰する「諸橋轍次記念 漢字文化理解力検定」や「諸橋轍次博士記念漢詩大会」などに取り組む。
編集後記
33年の歳月をかけて『大漢和辞典』13巻を完成させた諸橋轍次博士の人生を、諸橋轍次記念館前館長の嘉代隆一さんに語っていただきました。温厚で優しい人柄ながらも、戦争や失明、近親者らの死など大変な逆境に屈せず志を遂げた博士の人生に、心打たれずにはいられません。

特集
ピックアップ記事
-
対談
一道を歩み続けて拓かれてきた世界
コシノジュンコ(デザイナー)
小林研一郎(指揮者)
-
特別講話
我が柔道人生を語る
山下泰裕(東海大学特任教授/全日本柔道連盟名誉会長)
-
エッセイ
小径によらず大道を歩め 【漢学者・諸橋轍次が貫いた信念】
嘉代隆一(諸橋轍次記念館前館長)
-
エッセイ
脳科学の研究から見えてきた子育ての要諦
小泉英明(東京大学先端科学技術研究センター フェロー)
-
インタビュー
能楽修業に終わりなし
宝生欣哉(下掛宝生流十三世宗家)
-
インタビュー
行動でする奉仕が子供たちの未来を開く
原田義之(タイ国チェンライロータリークラブ元会長)
-
インタビュー
国産麻の存続なくして日本文化は守れず
大森芳紀(ジャパン・ヘンプ・クリエーション代表/野州麻紙工房代表)
-
エッセイ
村上和雄先生に学んだスイッチ・オンの生き方
堀 美代(心と遺伝子アカデミー代表)
-
対談
最後まで諦めず進化し続ける ~医師の使命に生きて~
大岩孝司(さくさべ坂通り診療所元院長)
安福和弘(トロント総合病院呼吸器外科部門チェアマン)
好評連載
バックナンバーについて
バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます
過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。
定期購読のお申込み
『致知』は書店ではお求めになれません。
電話でのお申込み
03-3796-2111 (代表)
受付時間 : 9:00~17:30(平日)
お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード







