運を高める生き方 野本弘文(東急会長) 熊谷正寿(GMOインターネットグループ代表)

本誌はこれまでも「運」に関するテーマを折に触れて組んできた。各界の第一線で活躍されている一流の方々にお会いし、質問を発するたび、「私は運がいいんです」と口を揃える。「私は運が悪いんです」と答えた人は誰一人としていない。交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートを事業の柱にまちづくりを手掛け、216社7法人で構成する一大グループを統括する野本弘文氏と、27歳の時に徒手空拳で創業した会社を上場企業10社を含む2800億円規模のインターネットグループへと導いてきた熊谷正寿氏。このお二方もまた然り。企業経営と運に相関関係はあるのだろうか――。

「努力なくして運は掴めず 感謝なくして運は続かず」

人生は絶えず努力、感謝、謙虚、これが一番大事だと心の底から実感しています

熊谷正寿
GMOインターネットグループ代表

〈熊谷〉
きょうは「運を高める生き方」というテーマをいただきましたが、結論ファーストで言うと、素晴らしい人と出逢うこと。これに尽きると思います。その意味で私にとって野本会長との出逢いはかけがえのないものです。

〈野本〉
2001年にこのセルリアンタワーがオープンして、GMOさんにはその時から入っていただいています。当社の大事なお客様ということで、ご挨拶をしたのが最初でしたね。

第一印象としては、いまのような笑顔、それと腰の低さ。IT企業の若い経営者は「もう俺は成功したんだ」という形で事業を売却してどこかにいなくなっちゃう方もいる中で、熊谷さんは次から次に新しいことをやってきました。また、社員の方を大事にするし、後進の起業家を育てることもなさっている。日本にとってものすごく貴重な存在ですよ。

〈熊谷〉
いえいえ、勿体ないお言葉です。ありがとうございます。

当社がセルリアンタワーにオフィスを構えることができたのは、一つの運であり縁だと思います。やっぱり場所と共に成長するのが企業ですからね。

GMOの原点となるボイスメディアを創業したのは1991年、27歳の時でした。複数人で会話可能な電話会議装置が流行っており、それを独学で自作し、数億円の利益を生みました。その後、インターネットと出逢い、魅力と可能性を感じ、これに人生を懸けようと。1995年に青山の小さなビルでインターネット事業を開始しました。事業の拡大と共にそこが手狭になって、渋谷インフォスタワーに移ったんです。

1999年8月27日、36歳の時、日本のIT企業として初めて上場させていただき、その時はスペースがないから1つのデスクに2人で座っていました(笑)。そんな中、建築中のセルリアンタワーを工事用ヘルメットを被って視察し、「ここにしよう」と。移転してさらに成長できたんです。

運のいい人はいつも明るくポジティブで前向き。

何があっても揺らぐことのない信念を持っていて、失敗を恐れずにチャレンジする

野本弘文
東急会長

〈野本〉
実はここをつくる時、私はメディア事業をやっていて、「これからはITの時代が来る。それにはインフラが絶対に必要だ」と。当時はインターネットが普及し始めた頃で、NTTさんがまだISDN(電話線を利用したデジタル回線)を使っていた中で、首都圏の私鉄に呼びかけ各社の線路に敷いてある光ケーブルの相互接続を実現しました。

で、これからはビルにも光ケーブルを入れなきゃダメだと思って提案するんですけど、社内では余計なコストがかかると反対の意見もあった。結局メディア事業費でやることになりまして、渋谷マークシティなどの近隣ビルにも導入していただいたんです。

〈熊谷〉
渋谷を中心に自由が丘から二子玉川まで、この三角形の中にITの集積地をつくろうと構想されたのも野本会長ですよね。

〈野本〉
そうですね。渋谷だけではなく、東急線沿線に光ケーブルを張り巡らせてIT環境の一番いい街をつくろうと。

〈熊谷〉
それに加えて、増床や撤退などに関する契約条件も、私どもの意向を最大限に聞き入れてくださって、ベンチャー企業を大事に育てようという寛容さに支えられていまがある。だから、東急さんあってのGMOなんです。

〈野本〉
いえいえ、とんでもない。GMOさんをはじめ様々なベンチャー企業に入っていただいたことで我々のつくるビルが稼働していますし、それで渋谷自体の価値が上がってきていますからね。まさにお互い様ですよ。

〈熊谷〉
そう言っていただけて本当に光栄です。野本会長は育ての親だと思っています。

〈野本〉
親ほどは離れてない(笑)。

〈熊谷〉
失礼しました。育ての兄貴ですね(笑)……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇素晴らしい人との出逢いがすべての始まり
◇まちづくりを手掛ける上で大切にしていること
◇AIを使えるか否かで人間とサルの差になる
◇東急グループに伝わる五島慶太翁の創業精神
◇全パートナーが共有する「GMOイズム」
◇「夢・人生ピラミッド」でどん底から這い上がった
◇エリートコースではない人間が社長に就いた要因
◇コロナ禍での開業という試練を乗り越えた閃き
◇400億円赤字の逆境でも誰一人辞めなかった理由
◇強い組織をつくるリーダーの心得
◇努力なくして運は掴めず 感謝なくして運は続かず

プロフィール

野本弘文

のもと・ひろふみ――昭和22年福岡県生まれ。46年早稲田大学理工学部卒業後、東京急行電鉄(現・東急)入社。63年グループ会社である東急不動産に出向。平成13年事業戦略推進本部メディア事業室長、16年グループ会社でケーブルテレビ事業を行うイッツ・コミュニケーションズ取締役社長を経て、19年東京急行電鉄取締役。23年4月より取締役社長に就任。30年より取締役会長。東急グループ代表も務める。

熊谷正寿

くまがい・まさとし――昭和38年長野県生まれ。平成3年ボイスメディア(現・GMOインターネットグループ)を設立。7年インターネット事業に進出し、11年には独立系ネットベンチャーとして日本で初めて店頭公開を果たす。現在は、上場企業10社を含むグループ114社を率いる。著書に『一冊の手帳で夢は必ずかなう』(かんき出版)『20代で始める「夢設計図」』(大和書房)など多数。


編集後記

東急の野本弘文さんとGMOの熊谷正寿さんの対談は、渋谷をはじめ東京の街並みを一望できるセルリアンタワー東急ホテル40階のタワーズバー「ベロビスト」にて行われました。多忙を極める経営者同士だけに取材は1時間半に満たない時間でしたが、10ページ約1万4000字の紙幅では到底収まり切らないほど濃密な人間学談義に。お二方が体験を通じて掴んだ「運を高める生き方」は必読です。

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