3 月号ピックアップ記事 /対談
最高のチームをつくる要諦 ~世界一&世界初の偉業はいかに成し遂げられたのか~ 白井一幸(2023WBC侍ジャパンヘッドコーチ) 津田雄一(はやぶさ2プロジェクトマネージャ)

2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、栗山英樹監督率いる侍ジャパンのヘッドコーチを務め、14年ぶり3度目となる世界一に貢献した白井一幸氏。2021年に地球帰還を果たし、新たな旅に出た小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャとして、9つの世界初のミッションを達成へと導いた津田雄一氏。野球と宇宙工学、分野は異なるものの、共に最高のチームをつくり上げ、偉業を成し遂げた。そのお二人が初めて相まみえ、語り合った体験的組織論は成功の要諦に溢れている。

できることを探すのがすごく重要で、挑戦しないことが一番のリスクだと思います。
また、「真面目=しかめっ面」ではダメで、その中でいかに楽しめるか、遊び倒すか
津田雄一
はやぶさ2プロジェクトマネージャ
〈津田〉
白井さん、はじめまして。WBCは私も観ていましたから、きょうは大先輩のお話を聴けることを楽しみにしてきました。
〈白井〉
ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。
〈津田〉
白井さんは方法論を確立されている状態でWBCに臨まれたと思いますが、私は初めて大きな組織のリーダーを任されたので、本当に試行錯誤を重ねながら四苦八苦しました。だから、もう一回同じことをやれと言われても再現できないだろうなと(笑)。
〈白井〉
試行錯誤している時って、やることに意識が向いていて必死だから、あまり大変さって感じなかったんじゃないですか。でも、後から振り返るとよくあんなことやっていたなって。
〈津田〉
本当にそうです。アドレナリンがずっと出ているような感じで、いま考えるとよくあんなことやっていたなと思います。すごく濃密な時間でした。
我々の場合、はやぶさ2の打ち上げから地球帰還まで六年間ありましたので、時間をかけて徐々にチームをつくっていったのですが、野球は一年サイクル、WBCになると非常に短い期間でチームをまとめていくわけですよね。それをどうやって成し遂げられたのか、すごく興味があります。

常にゴールに向かって、いま意識してできることを愚直に徹底して全力でやり切る。
それを継続していくと、最後に野球の神様、仕事の神様が微笑んで成し遂げることができるんです
白井一幸
2023WBC侍ジャパンヘッドコーチ
〈白井〉
WBCの時はキャンプが約20日、試合が約20日、40日間のチームでした。でも、侍ジャパンのような短期の代表チームであろうと、ファイターズのような長期のクラブチームであろうと、チームが一つになる方法は同じなんです。私はファイターズで取り組んできたチームづくりを侍ジャパンにそのまま当てはめましたし、いまは主に企業研修を年間200日ほど手掛けていまして、大小様々な組織づくりに生かせます。
大事なのはゴールを全員が共有できるかどうかなんですね。どんなことがあっても何が何でもゴールに行くんだと、チームの全員が思えるかどうか。ゴールというのは目標だけではないんです。目的も含めてゴール。もっと言えば、本当のゴールは目的のほうです。
何のためにこの目標を達成するのか、この目標を達成するとどんなことが起きるのか、どんな価値が生まれるのか。こっちのほうが実は重要なんです。
〈津田〉
すごく共感します。私の場合は国家プロジェクトでたくさんの人と時間とお金を投資してやるわけですが、結果は保証されていない。ですから、たとえ失敗したとしても、こういう学びがあったとか、世の中にこういう明るい話題を与えられたとか、携わる人たちが長い間これをやってよかったと思ってもらうためには何をすればいいんだろうってすごく考えさせられました。
野球の場合、目標は勝つことで、目的はそのプロセスで何を見せるか、ということですか。
〈白井〉
そうです。侍ジャパンは世界一になるという目標を掲げましたけど、それは必ずなれるわけではない。もっと大事なもの、我々ができることって何かと言うと
……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全11ページ(約16,000字)~
◇侍ジャパンが掲げた目的と目標
◇いかにして全員がゴールを共有したのか
◇まるで芸術作品のようなはやぶさ2のチーム
◇「発案は個人、評価はチーム、責任はリーダー」
◇アイデアを湧き立たせるファシリテーションの秘訣
◇ヘッドコーチとして常に意識してきたこと
◇プロジェクトマネージャとしての最大の決断
◇緊張やプレッシャー、失敗との向き合い方
◇ターニングポイントを支えた本との出逢い
◇この道に生きると思い定めた人生の原点
◇日本一弱いチームと世界一強いチームの差
◇勝利や成功を掴む三つの条件
プロフィール
白井一幸
しらい・かずゆき――昭和36年香川県生まれ。58年駒澤大学を卒業後、ドラフト1位で日本ハムファイターズ入団。平成3年自身最高打率3割1分1厘でリーグ3位、最高出塁率とカムバック賞を受賞した。9年日本ハムファイターズの球団職員となり、ニューヨーク・ヤンキースへコーチ留学。12年二軍総合コーチ、翌年二軍監督を経て、15年一軍ヘッドコーチに就任。令和5年のWBCで侍ジャパンヘッドコーチを務め、世界一に輝く。企業研修講師としても全国を飛び回る。著書に『侍ジャパンヘッドコーチの最強の組織をつくるすごい思考法』(アチーブメント出版)など多数。
津田雄一
つだ・ゆういち――昭和50年広島県生まれ。平成15年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。同年JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入る。小惑星探査機「はやぶさ」の運用に関わると共に、ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」のサブプロジェクトマネージャを務め、世界初の宇宙太陽帆船技術実現に貢献。22年より小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトエンジニアとして開発を主導し、27年プロジェクトマネージャに就任。世界初となる9つのミッションを達成に導く。著書に『はやぶさ2 最強ミッションの真実』(NHK出版新書)などがある。
編集後記
侍ジャパン世界一、はやぶさ2世界初のミッション達成という偉業はいかに成し遂げられたか。そこに通底する最高のチームをつくる要諦は何か。白井一幸さんと津田雄一さんを組み合わせることでどんな化学反応が生まれたか。お二人は初対面ながらもすぐ意気投合し、予定を超過して2時間半近くに及ぶ白熱の対談に。マネジメントの本質を捉えた話が次々と展開されており、興味は尽きません。

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