3 月号ピックアップ記事 /エッセイ
日本初の女性弁護士・三淵嘉子の生き方 佐賀千惠美(弁護士)

公然とした女性差別が存在した1940年、日本初の女性弁護士の一人としてキャリアをスタート。戦中戦後の激動の時代を生き抜き、女性法曹の道なき道を切り拓いたのが法律家・三淵嘉子である。その波瀾万丈の人生は、テレビドラマのモデルにもなり大きな反響を呼んだ。自身も長年弁護士業に打ち込んできた佐賀千惠美さんの語りから、運命を開く要諦を探る。
【写真=横浜家庭裁判所退官の日に。大勢の職員に見送られ、笑顔で裁判所を後にした ©三淵邸・甘柑荘/アマナイメージズ】

人間というものを信じている。
だからどんなに悪いと言われている少年でも、必ずこの少年はどこかいいところがあって、よくなるのじゃないかと希望を失わない
三淵嘉子
©三淵邸・甘柑荘/アマナイメージズ
大正3年シンガポール生まれ。昭和13年明治大学法学部卒業後、高等試験司法科試験合格。15年弁護士登録、中田正子、久米愛と共に日本初の女性弁護土となる。24年東京地裁判事補、石渡満子と共に女性裁判官に就任。27年名古屋地方裁判所で初の女性判事となる。47年新潟家庭裁判所で初の女性家庭裁判所長に就任。54年退官。59年骨がんのため69歳で逝去。

自分の思い描く人生を精いっぱい生きたいという自我の強さと、家族や後輩、家庭裁判所に送られてきた少年少女をはじめとした人のために尽くす精神。
一見すると相反するように思える気持ちを両立させ、襲い来る苦難に立ち向かう。
逞しくも愛に溢れた嘉子の生き方は、運命を開く要諦を示して余りあるのではないでしょうか
佐賀千惠美
弁護士
「いつ頃ですか? 日本に女性の弁護士や裁判官が生まれたのは」
この問いが一つの機縁となりました。結婚を機に検事を退官し、主婦として2人の子供を育てていた1985年、出版社の知人から司法試験の受験生に向けた原稿を依頼されました。その際に冒頭の質問を尋ねられたものの、答えることができなかったのです。
第二次世界大戦前は女性に選挙権もありませんでしたから、恐らく戦後だろう。そう思い調べたところ、1940年に3人の女性弁護士が誕生した史実を知りました。それが中田正子、久米愛と共に日本初の女性弁護士になった一人にして、女性で初めての裁判所長を務めた三淵嘉子との出逢いです。
ところが、日本の女性法曹の草分けについてまとまった本はありませんでした。いま在命中の身内の方々のお話を聞いておかなければ、彼女たちの功績は年月と共に忘れ去られてしまう。これは私が残さなければならないという使命感に駆られ、僅かな手掛かりを頼りに、嘉子の一人息子である和田芳武さんや唯一ご存命だった中田正子先生への取材を始めました。
3人の先駆者の足跡を辿る中でも、とりわけ感銘を受けたのが嘉子の激動の人生です。相次ぐ肉親の死に見舞われながらも、持ち前の頭脳と自我の強さ、他人への思いやりと献身性で女性法曹の道なき道を切り拓きました。
その逞しい生き様に心を鼓舞されたからこそ、幼い子供を抱えながらも取材と執筆を続け、1991年に『華やぐ女たち 女性法曹のあけぼの』を上梓することができたのです。
……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇激動の時代を生き抜いた女性法曹の草分け
◇「私は精いっぱい生きたと思って死にたいの」
◇夫、父母、弟の死を乗り越えて
◇「家庭に光を 少年に愛を」 5,000人の少年少女に向き合う
◇逞しくも愛に溢れた〝家庭裁判所の母〟
プロフィール
佐賀千惠美
さが・ちえみ――昭和27年熊本県生まれ。52年司法試験に合格。53年東京大学法学部卒業後、司法修習生。61年弁護士登録。平成13年佐賀千惠美法律事務所を京都で開設。著書に『三淵嘉子の生涯』(内外出版社)『三淵嘉子・中田正子・久米愛 日本初の女性法律家たち』(日本評論社』)など。
編集後記
昨年放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』のモデルとなり、脚光を浴びている三淵嘉子。同じ女性弁護士としての敬慕を交え佐賀千惠美さんが語る三淵の姿に、逞しくも凛とした生き方が見えてきます。時代の先駆者の足跡は多様性が謳われる現代に示唆を与えてくれるでしょう。

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