勝利は日々の精進の先にある 永瀬貴規(パリ2024オリンピック男子柔道81㎏級金メダリスト)

〝鬼門〟――柔道界では世界の強豪がひしめき、日本選手が長く苦杯を嘗めてきた階級をそう呼んでいる。その最難関である男子81㎏級で五輪2連覇の偉業を成した永瀬貴規氏は、歓喜の瞬間も表情を崩さず、礼に徹する姿が称賛を集めた。しかし、その栄光の陰には並々ならぬ精進の日々があったという。氏はいかなる信念の下で、柔の道に向き合っているのだろうか。

人は1日にして強くならないと自分に言い聞かせてきました。

1週間でも1か月でも、日々、本当の積み重ねをした人が強くなる

永瀬貴規
パリ2024オリンピック男子柔道81㎏級金メダリスト

――昨夏、永瀬選手はパリ五輪で大会2連覇という歴史的快挙を収められました。いまはどんなことを意識して柔道と向き合っておられますか。

〈永瀬〉
ここ数か月、柔道教室だったり講演だったり、畳の外での活動に積極的に取り組ませていただいています。というのは、柔道界を盛り上げるために、2連覇をしたいまの自分だからやれる、やらなくちゃいけない活動があると思うからです。

例えば、2020年から母校の長崎日本大学高校で開催している「永瀬貴規杯」という小中学生以下の柔道大会があるんです。この年末に第4回大会があって、私も長崎に帰って参加してきました。今回は就学前の幼児から中学生まで、県内外の計750人の子供たちが出場してくれました。

――750人も。

〈永瀬〉
5年前、コロナ禍で柔道界でも大会が軒並み中止になりました。私たちも大変でしたけども、もっと可哀相なのは試合の機会を奪われた子供たちです。私は子供時代、試合で勝つ喜び、負ける悔しさをとことん味わったおかげで柔道にのめり込むことができました。そして、世界の舞台を知る選手たちに接することで憧れと自分の目標を持つことができて、いまここにいます。

苦しい時期だからこそ、子供たちに柔道を通してモチベーションを与えてあげたい。そこで母校の恩師と相談して始めたのが永瀬杯です。オリンピックで2連覇を果たしたいま、日本柔道のため、子供たちのため、自分にできることがあれば一層力を尽くしていきたいという思いでいます。

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~本記事の内容~
◇五輪2連覇で生まれた新使命
◇見て学ぶ、真似て覚える
◇「九州王者じゃない、日本一を目指そう」
◇たった一日で強くなれると思わない
◇予期せぬ大怪我が授けてくれたもの
◇勝敗を決するものは心のありよう
◇不断の努力が勝利の扉を開く

男子81㎏級では異例、2連覇の証となる金メダル

プロフィール

永瀬貴規

ながせ・たかのり――平成5年長崎県生まれ。6歳で柔道を始め、小・中学生時代に全国大会へ出場、頭角を現す。長崎日本大学高等学校1年次に81㎏級で全国優勝を収め、27年筑波大学2年次に国公立大学初となる全日本優勝を牽引。同年世界選手権にて81㎏級では日本選手初の優勝を果たす。28年旭化成所属、リオ五輪銅メダル。令和3年東京五輪で優勝、6年パリ五輪で2連覇を飾る。


編集後記

剛毅朴訥。永瀬さんにお会いした印象をひと言で表すならこうなります。1月中旬、しんしんと冷え込んだ筑波大学の武道館(柔道場)で、取材は行われました。現れた永瀬さんは世界王者の驕りのようなそぶりは一切見せず、恭しく一礼して畳に上がられました。こちらの質問に対し、即座に、しかし通り一辺倒の表現ではなく一つずつ自分の言葉でお答えくださったのが印象的でした。

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