102歳の巨匠 いま、この時を生きる 野見山暁治(画家)

画家・野見山暁治氏は、102歳のいまなお絵筆を執り続けている。「特別に仕事に打ち込んでいる感覚はない」と笑う野見山氏だが、常にテーマを持ってキャンバスに向き合うなど、その創作意欲は衰えを知らない。戦争体験や戦没画学生の絵を集めた「無言館」の創設などこれまでの人生を振り返りながら、長年一道に生きてこられた現在の心境をお話しいただいた。

人間が死に直面した時、『有名になろう』とか『大きな事業をしよう』という思いはなくなり、目の前の何気ない出来事や人との繋がりを慈しみながら、小さく小さく生きていくものだということを心から痛感したんです

野見山暁治
画家

――野見山先生は102歳のいまも、唐津湾を一望できるこの糸島(福岡県)のアトリエで絵筆を執り続けていらっしゃいますね。

〈野見山〉 
絵筆を執り続けるとおっしゃいましたが、僕には特別に仕事をしている感覚はありません。「ちゃんと飯を食べている」というのと同じでね、絵は生活の一部になっている。大体朝8時頃に起きてご飯を食べて、小1時間朝寝をした後にアトリエに入って、お昼を食べてまた昼寝。だから、絵を描くというより、ほとんど寝てばかりです(笑)。

僕は糸島と東京にアトリエがあるんです。糸島のアトリエで生活するのは例年夏から秋にかけてですから、本当ならいまごろ東京にいるはずなのですが、昨年の秋、夜中にトイレに行こうとして倒れましてね。鎖骨を折って動けなくなってしまった。2か月後には創作を始められるようになりましたが、こうして杖を突きながら何とか歩いている状態です。

――アトリエには制作中の絵がいくつも並んでいます。強い筆のタッチがとても印象的です。

〈野見山〉 
この年になっても絵が描けるのは大変恵まれたことだと思っています。僕は子供の頃から絵描きになろうと思ったことはないんです。好きで絵を描き続けているうちに、気がついたらここまで来てしまいました。

プロフィール

野見山暁治

のみやま・ぎょうじ――1920年福岡県生まれ。1943年東京美術学校(現・東京藝術大学)油画科を卒業。応召。戦後は1952年より渡仏。1956年サロン・ドートンヌ会員。1958年安井賞受賞。1968年東京藝術大学助教授就任。後に教授。1977年『祈りの画集』(共著、日本放送出版協会)出版。1992年第42回芸術選奨文部大臣賞など受賞多数。2000年文化功労者。2014年文化勲章受章。


バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる