6 月号ピックアップ記事 /インタビュー
事故の日から紡いだわが人生讃歌 古市佳央(講演家/歌手)
重度熱傷全身41%、手術回数33回、切除した皮膚1.5キログラム……16歳当時のバイク事故により、古市佳央氏が味わった痛苦の一部である。外見と手足の機能を損なう絶望は以後、心に長く影を落とした。その氏はいま、自らを世界一幸せと言い切り、生きる喜びを歌っている。何が心に光を点したのか。人生の悲劇はどうすれば肯定できるのか。
感謝を忘れた時、それを思い起こさせる出来事が必ず起こるんです
古市佳央
講演家/歌手
――古市さんは35年前、バイク事故で全身大火傷を負いながら、奇跡的に一命を取り留められました。これまで講演家、歌手として10万人以上の聴衆の前に立ってこられたそうですが、命についてのお話は特に身につまされます。
〈古市〉
ありがとうございます。
2000年からずっと、講演を続けてきました。歌を始めたのは6年ほど前、知り合いのアーティストに薦められてからです。
音楽は齧っていたとも言えないくらいの経験しかありませんでした。でも、最近では僕の歌を聞いた北海道の方から「いろんなアーティストの歌を聴いてきたけど、初めて心に刺さって、涙が出ました」とまで言ってもらえました。
僕は作曲ができないので、伝えたいメッセージを決めて一気に詞を書きます。もっと歌が上手な人はごまんといるでしょう。ただ、この歌を歌えるのは僕しかいない、そう思って歌っています。
――講演と歌で、一貫して伝えておられることは何ですか。
〈古市〉
一つは、どんなに辛くても生きていればこそ希望が生まれる。立ち直るチャンスもあるということです。僕は事故に遭ってから、自分が世界で一番不幸な人間だと思い込んでいました。でも、もし死んでいたらすべて終わり、いまの幸せな自分はいませんでした。
世の人の多くは、社会人とは、大人とはこうあらねばならぬという観念に囚われて自分を苦しめています。でも、辛かったら弱音を吐いていい。生きているだけで幸せなのであって、それ以外は付録のようなものなんです。
皆さんの問題を直接は解決できませんけど、死を考えている人の心を生きる方向にスイッチさせられたなら、それが究極の喜びです。
プロフィール
古市佳央
ふるいち・よしお――昭和46年埼玉県生まれ。63年16歳の春、バイク事故で全身の41%に火傷を負い、生死の境を彷徨う。3年に及ぶ手術とリハビリを家族の支えを受けて乗り切り、退院。平成12年講演活動を開始。14年「オープンハートの会」設立。著書に『這い上がり』(ワニブックス)『君の力になりたい』(北水)がある。
編集後記
自分の外見が火傷で全く変わってしまったとしたら、手足が思うように動かせなくなったとしたら……。いくら「生きることが大切だ」「死んではいけない」と言われても、前を向いて再起するのは誰しも容易ではないはずです。
しかし直にお会いした古市さんの表情やお声には、生きる辛さや悲しみ、苦労は滲んでおらず、むしろ純粋な優しさを感じました。人生がまるっきり変わった事故を経て、新たな自分を紡ぎ出してきた古市さんの言葉に、生きる勇気をいただきます。
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