4 月号ピックアップ記事 /インタビュー
人生の旅立ちに立ち会って 石飛幸三(特別養護老人ホーム芦花ホーム医師)
東京都世田谷区の特別養護老人ホーム 芦花ホームの医師・石飛幸三氏は18年間、多くの入居者の死を看取ってきた。大病院時代の石飛氏にとって手術の失敗は文字通り敗北だった。しかし、同ホームに勤務し医学の限界と終末医療のあり方を突きつけられることになる。氏が行き着いた医療とはどのようなものなのだろうか。
私が人間の死というものを意識するようになったのは、広島で育った少年の頃でした。10歳の夏、国民小学校4年生だった私は、皆と一緒に早朝から畑で農作業に勤しんでいました。すると、一瞬目の前が光で真っ白になり、大きな爆音と共にキノコ雲が立ち上ったのです
石飛幸三
特別養護老人ホーム芦花ホーム医師
この世に生を受けた以上、何人も絶対に避けられない宿命があります。それが死です。私たちは苦しいことや悲しいことなど様々な人生の四季を味わいながら、その終焉へと向かいます。避けられない死だとしても、せめて死に臨んでは苦しまないように、取り乱さないようにというのは万人の願いと言えるでしょう。
40年以上にわたり大病院で外科医として働いていた私が、東京都世田谷区にある特別養護老人ホーム芦花ホームの常勤配置医師になったのはいまから18年前の2005年。以来、88歳になる現在に至るまで多くの入所者の死を看取ってきました。
介護施設での勤務医と言えば、その多くは医療機関から定期的にやってくる非常勤の配置医師が大半で、私のような常勤医師は極めて希(まれ)です。しかし、時々施設に顔を出し看護師の説明を受けながら入所者と接するだけでは、入所者の人生と真に向き合うことはできないというのが私の信条です。
入所者一人ひとりがどのような過程を経てこの施設を終(つい)の棲家として選んだのか、家族の間でどのような葛藤があったのか、また、どのような最期を望んでいるのか。これらは入所者や家族に寄り添ってこそ分かることなのです。
プロフィール
石飛幸三
いしとび・こうぞう――昭和10年広島県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。ドイツで血管外科を学び帰国後は東京都済生会中央病院に勤務。同病院副院長を経て平成17年特別養護老人ホーム・芦花ホームの常勤医師となる。著書に『平穏死のすすめ』(講談社文庫)『家族と迎える「平穏死」』(廣済堂出版)など。
編集後記
東京都世田谷区の特別養護老人ホーム・芦花ホームで常勤医師を務める石飛幸三さんは18年間、多くの入所者を看取ってきました。現代医療に疑問を持ち、安らかな終末のあり方を求め続ける石飛さんのお話は、人間の生と死について多くの示唆を与えてくれます。
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