4 月号ピックアップ記事 /インタビュー
薬膳に棄物なし 料理人に完成なし 追立久夫(薬膳料亭「凛 追立」オーナーシェフ)

高校卒業後、単身香港に渡ったのを皮切りに料理の本場を渡り歩き、薬膳に目覚めた追立久夫氏。日本で知る人の少なかった薬膳、その本質を追究し広める独創の歩みは悲喜交々であった。この道50余年、料理を通して人生を味わい、古希を越えた氏の仕事観・人間観に迫る。

人生の艱難辛苦をどう越えるかと言えば、自信を持つことが大事でしょうね。不思議なもので、自信を持つと体も全部が治るんです
追立久夫
薬膳料亭「凛 追立」オーナーシェフ
――薬膳とはどういう出合いを?
〈追立〉
そもそも料理の道に入ったわけは、小さい時に貧乏したからです。
鹿児島の田舎で、いっつもお腹を空かしていました。でも、そんな私をおふくろや近所の人が畑や山へ連れていって、「この根っこは食べられるよ」「これは薬草だよ」と教えてくれました。「なるほど、食べ物は自然の中にいっぱいあるんや」と学びましたね。
――幼いながらに感激した。
〈追立〉
そこから自分というものが芽生えて、薬草や果物を外に出て採ってくるようになり、中学に上がる頃には、雉(きじ)や野ウサギを自分で獲って、血を抜いて捌(さば)いて食べるようになっていました。何でも目で見て覚えていったんです。
だから貧乏はしたけれども、貧乏からいい財産をもらいました。教科書にない財産です。
その後、大会で勝っておふくろを喜ばしたろうと精を出していた柔道で、県内の高校の先生に「寮代は要らんからうちに来ないか」と誘われて進学できました。その寮で調理係になった時、皆が口々に「追立の料理はめちゃくちゃうまい!」と褒めてくれたんです。
柔道には、この体勢に持ち込んだら誰にも負けないという型があります。それが私にとっては料理でした。それから次は違う技をかけよう、人と違う料理を考えようと挑んできたのが私の人生です。

自ら食材を育て、研究し、独自の薬膳を生み出してきた
写真◉玉子と旬菜のサラダ冷菜
食材:
自家栽培ニンジン、自家栽培若かぶ、自家栽培生クコの実、自家栽培青トマト、黄トマト、自家栽培のさつまいも、自家栽培の胡瓜、自家栽培オレンジ、薬膳玉子、ピータン、揚げネギ
プロフィール
追立久夫
おいたて・ひさお――昭和26年鹿児島県生まれ。高校卒業後、46年香港に渡り、北京料理・広東料理の修業に入る。以後、日本と中国、台湾、韓国など本場を行き来しながら薬膳料理の研究を進め、「追立式」中国料理を確立。平成2年『追立久夫の薬膳と健康』全5巻を出版。翌年国際食博覧会中華部門で金賞、郵政大臣賞を受賞。8年独立し、現在は「凛 追立」(大阪府守口市)オーナーシェフを務める。
編集後記
「本物の薬膳」を世の中に伝えたい。シェフのやむにやまれぬ思いが、今回の取材に繋がりました。
古希を越えたいまも、午前中は庭の畑で栽培する約百種類もの食材の手入れ、午後は夜遅くまで厨房に立っているというその仕事ぶりに脱帽。調理学校に通わず、20代から自分独自の料理を求めて海を渡り、ある試練を経て料理人としての自信を得てこられた歩みに、勇気をいただきました。
自分の店を持って30年余り、なおも青春の風を吹かせていられるわけは、ぜひ本誌をご覧ください。

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