4 月号ピックアップ記事 /対談
一道に生き、我が情熱は衰えず 小林研一郎(指揮者) 羽生善治(将棋棋士)
「炎のマエストロ」と呼ばれ、間もなく83歳になるいまもタクトを振り続ける世界的指揮者の小林研一郎氏。将棋界において前人未到の7冠や通算1500勝を達成し、目下、通算タイトル百期をかけて藤井聡太王将との第72期王将戦に挑む羽生善治氏。30年来の知己であるお二人は一つの道を貫く中でどのような人生の四季を味わい、どのような心境に至ったのだろうか。プロとして歩み続けるお二人の仕事観、人生観に学ぶ。
僕は音楽は祈りだと思っているんです。例えば、一瞬演奏が止まって静まり返り、空気の中に沈潜した世界、独特の余韻が残っている時間、その時間こそが祈りなんですね
小林研一郎
指揮者
〈羽生〉
小林先生、お元気そうで何よりです。
〈小林〉
羽生先生こそ。僕は先生の長年の大フアンですから、久々にお目にかかれると思うと嬉しくて昨晩はなかなか眠れませんでした(笑)。王将戦前の大変お忙しい時にお会いいただけたことをとても光栄に思っています。
〈羽生〉
小林先生も年末はとてもお忙しくされているのではないですか。毎年大晦日は……。
〈小林〉
実はベートーヴェンの交響曲全9曲を1日で演奏する全交響曲連続演奏会を長年続けていたのですが、昨年の15回を節目としてやめることにしました。僕も82歳になりますので。
棋士にとって一番大切な課題は、やはり負けた時にどう気持ちを切り替えられるかでしょうね。結果は人のせいにはできないし、自分が選んだ手は完全に自分の責任なんですね。将棋に偶然性というものはありません
羽生善治
将棋棋士
〈羽生〉
そうでしたか。年末の演奏会はお昼に始まって年が明ける午前零時前に終わるという長時間の、ある意味でとても苛酷な演奏会ですから、それを15年間も続けられてきたこと自体、素晴らしいことですね。
〈小林〉
もちろん、音楽と向き合うのは確かに苦しいことが多いのですが、そういう中で僕の大きな楽しみが将棋なんです。時々羽生先生とメールのやりとりができることが嬉しく、コンサートで海外に行っている時も先生の対戦の結果ばかり気になっています(笑)。
〈羽生〉
いつも注目していただいてありがとうございます。
プロフィール
小林研一郎
こばやし・けんいちろう――昭和15年福島県生まれ。東京藝術大学作曲科、指揮科の両科を卒業。49年第1回ブダペスト国際指揮者コンクール第1位、特別賞を受賞。その後、多くの音楽祭に出演する他、ヨーロッパの一流オーケストラを多数指揮。平成14年の「プラハの春音楽祭」では、東洋人初のオープニング「わが祖国」を指揮。ハンガリー国立フィル桂冠指揮者、名古屋フィル桂冠指揮者、日本フィル音楽監督、東京藝術大学教授、東京音楽大学客員教授などを歴任。ハンガリー政府よりハンガリー国大十字功労勲章(同国最高位)等を、国内では旭日中綬章、文化庁長官表彰、恩賜賞・日本芸術院賞等を受賞。
羽生善治
はぶ・よしはる――昭和45年埼玉県生まれ。6歳で将棋を始める。小学6年生で二上達也九段に師事し、奨励会(プロ棋士養成機関)に入会。中学3年生で4段となり、史上3人目の中学生プロ棋士に。平成8年7大タイトルを独占し、史上初の7冠に。30年棋士として初めて国民栄誉賞受賞。令和4年公式戦通算1500勝達成。通算タイトル獲得数は99期と単独1位。現在、タイトル100期を期して藤井聡太王将との王将戦に挑む。著書に『決断力』(角川書店)『迷いながら、強くなる』(三笠書房)など多数。
編集後記
トップ対談を飾っていただいた指揮者の小林研一郎さんと将棋棋士の羽生善治さんは、30年来の親交を持つ間柄です。大の将棋ファンで、自らもアマチュア4段の腕前を持つ小林さんは久々の再会を喜び、藤井聡太さんとの王将戦に挑む羽生さんにエールを送られていました。お二人のお話には、一道を歩み続け、更なる高みを目指す人でなくては醸し出せない味わいと迫力があります。
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