4 月号ピックアップ記事 /インタビュー
華道一筋、師の心を求め続けた我が90年の人生 池坊専永(華道家元四十五世)
〝いけばなの根源〟である華道家元・池坊。その560年にわたる伝統の「技」と「心」を、今日に伝え続けているのが四十五世を継いだ池坊専永氏である。氏の90年の歩みには花の一生と同じく、種から萌芽し、蕾の時代を経て大きな花を開かせ、そして後世へ向けて種を残す時期が存在している。その足跡を辿りながら、人生における四季とは何かを考えてみたい。
〈写真=池坊氏が修行中に母を思う心境を表した作品「お母ちゃん 一番星み〜つけた」〉
心とは何か……それは言葉では表しがたく、また1日や2日で掴めるものでもありません。10年20年と師の傍に仕え、また花を見続ける中でだんだんと各々の心の内に悟りのように見つかるものなのでしょう
池坊専永
華道家元四十五世
――いけばなの奥深さや仕事の妙味を、歳を重ねるごとに一層感じておられることと思います。
〈池坊〉
いけばなと共に長い年月を歩んできて、今改めていけばなの魅力とは何かと考えると「残るものがない」ということだと思うのです。
絵画や彫刻などは作品として後世まで残り続けます。一方、いけばなは生きた草花を使いますから、作品の命は一瞬です。では何を残さなければならないかと考えた時に、それはやはり〝師の心〟だと思うのです。花を通じて師匠の心を弟子に伝え、弟子の心をまたその弟子に伝える。作品ではなく〝いけばなの精神〟が560年という長きにわたって連綿と受け継がれているのです。
どんなによい花を生けたとしても、素晴らしい作品に仕上げたとしても、いけばなは売ることも買うこともできません。飾ってある花を通じて、その奥にある目に見えない心を表すのが華道です。心というのは目に見えない。その見えないものを掴めるようにじーっと鍛錬することが、いけばなにおける修業です。
――生けられた花を通じて、目に見えないつくり手の心を見ると。
〈池坊〉
目に見えるのは色と形のみ。その奥に秘められたものを見るというのは、人間も同じでしょう。表情や動作は目に見えても、なかなか人の心は見えてこない。
この心を見るのは大変難しいことだと思いますね。昨今、目に見える豊かさばかりを追い求める風潮が強くなり、この目に見えないものの尊さ、価値というものが見失われてしまっている印象が拭えません。どんなに時代が変わろうとも、この「心」は決して失ってはならないものなのです。
プロフィール
池坊専永
いけのぼう・せんえい――昭和8年京都市生まれ。20年先代である父の死去に伴い、11歳で華道家元を継承すると同時に得度。20年比叡山中学に入学。僧侶の修行のため比叡山・坂本にある慈照院(当時)にて生活する。厳しい修行を重ね、20歳の時に六角堂(紫雲山頂法寺)住職に就任。31年同志社大学卒業。52年にいけばなの新しい型である「生花新風体」を、平成11年に「立花新風体」を発表。18年文化普及の功労により、旭日中綬章を受章。著書に『池のほとり』(日本華道社)など。
編集後記
華道家元・池坊は京都の地で560年、いけばなの精神を脈々と受け継いできました。四十五世を務める池坊専永さんは僅か11歳で家元を継いで以来、今日までいけばな文化の発展のために尽力されています。今年卒寿を迎えるとは思えないほど矍鑠たるお姿に、長年にわたり一筋に道を求めて精進してきた背景が伝わってくるようでした。
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