1 月号ピックアップ記事 /エッセイ
遂げずばやまじ 大槻玄沢の歩いた道 相馬美貴子(一関市博物館主幹)
日本に初めて西洋医学の知見をもたらした『解体新書』の出版から52年後、内容を大幅に改訂した『重訂 解体新書』が発刊された。その改訂に生涯を捧げたのが、蘭学者として、また医者として様々な功績を残した大槻玄沢その人である。今号の特集テーマ「遂げずばやまじ」の言葉を残したと言われる玄沢は、いかに自身の道を切りひらいたのか──その足跡を辿る。
「およそ事業は、みだりに興すことあるべからず。思ひさだめて興すことあらば、遂げずばやまじの精神なかるべからず」
大槻玄沢
おおつき・げんたく
宝暦7(1757)年~文政10(1827)年
相馬美貴子
一関市博物館主幹
「およそ事業は、みだりに興すことあるべからず。思ひさだめて興すことあらば、遂げずばやまじの精神なかるべからず」
江戸時代の蘭学者・大槻玄沢(1757~1827年)の言葉です。
歴史上、広く知られた人物ではありませんが、『解体新書』を記した杉田玄白、前野良沢の高弟として蘭学の基礎を築き、開花させた日本蘭学史上の巨匠です。
大槻玄沢が為した代表的な事業は何といっても『重訂 解体新書』の出版でしょう。
西洋医学の知見をいち早く世に広めることを重視した杉田玄白は、十分な翻訳ではないことを承知の上で1774年に『解体新書』を出版しました。それを長年憂慮し、改訳版の出版という大任を愛弟子の大槻玄沢に託したのでした。
詳細は後述しますが、その翻訳に要した歳月は実に36年。大槻玄沢が71歳で生涯を閉じるその前年に、ようやく日の目を見ることとなりました。
本欄では大槻玄沢の知られざる足跡を辿りながら、この「遂げずばやまじの精神」を繙いていきたいと思います。
プロフィール
大槻玄沢
おおつき・げんたく―宝暦7(1757)年~文政10(1827)年。一関藩出身の江戸時代後期の蘭学者。安永7(1778)年に江戸遊学を許されて杉田玄白の門に入り、医術を修める傍ら、前野良沢に蘭語を学んだ。我が国最初の蘭学塾を開くと共に、『重訂解体新書』をはじめ多数の著・訳書を著し、日本の蘭学の発展に多大な足跡を残した。著作は240巻以上。
相馬美貴子
そうま・みきこ―昭和39年山形県生まれ。山形大学教育学部卒業、平成5年から開館準備段階の一関市博物館(当時は建設対策室)に勤務。近世分野の他、「大槻玄沢と蘭学」「一関と和算」の展示室を担当。19年に「GENTAKU~近代科学の扉を開いた人~」、昨年度は「江戸時代の世界地図」、今年度は「江戸時代の女性たち~武家・農民・商人~」の展覧会を企画担当。一関市博物館は令和4年開館25周年を迎え、同館所蔵の大槻家関係資料が、重要文化財指定の答申を受ける。
編集後記
本号の特集テーマ「遂げずばやまじ」は蘭学者・大槻玄沢の言葉です。玄沢は翻訳が不十分だった『解体新書』の改訂に取り組み、元の2倍以上の内容量に仕上げた功労者。完成までの36年間の足跡を、玄沢の故郷にある一関市博物館主幹の相馬美貴子さんに語っていただきました。
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