1 月号ピックアップ記事 /対談
〝JALの奇跡〟はかくて実現した 大西 賢(日本航空元社長) 大田嘉仁(日本航空元会長補佐専務執行役員)
総額2兆3,000億円という事業会社として戦後最大となる負債を抱え、2010年に経営破綻した日本航空(JAL)。そのJALを奇跡と言われる再建に導いたのが、2022年8月に逝去された京セラ創業者の稲盛和夫氏である。破綻後の新社長として難しい経営の舵取りを担った大西 賢氏、稲盛氏の側近としてJAL社員の意識改革に奮闘した大田嘉仁氏のお二人に、知られざる再建の軌跡、稲盛氏に学んだ経営の要諦、リーダーシップの神髄を語り合っていただいた。
どれだけ多くの人の共感を呼んで、どれだけ多くの人を巻き込み、一緒に目標に向かって進めるか、経営はそこに尽きるんです
大西 賢
日本航空元社長
〈大田〉
稲盛さんと共に経営破綻した日本航空(以下JAL)の再建に取り組んだ大西さんと、このような場で対談をさせていただくのは初めてのことですね。きょうはとても楽しみにしていました。
〈大西〉
こちらこそ楽しみにしていました。改めて当時のことや稲盛さんの教えを振り返る機会をいただき、ありがとうございます。
〈大田〉
その稲盛さんが今年(2022年)の8月24日に90歳でお亡くなりになりました。大西さんは稲盛さんの訃報をどのように受け止められましたか。
〈大西〉
ここ数年は実際にお目に掛かる機会はほとんどなく、特に2019年に盛和塾が解散してからは、塾生の皆さんとのお付き合いも少なくなり、稲盛さんがどうしていらっしゃるのか情報もあまり得られない状況が続いていました。
ただ、毎年稲盛さんがお生まれになった一月を迎えると、「今年は〇〇歳になられたな」って、稲盛さんのことをふっと思い出すんですよ。だから、今年の1月も、「ああ、90歳になられたな」と。
そのような中、ある会社の取締役会でブリーフィング(事前報告)を受けている時に稲盛さんの訃報を知ったんです。90歳ですから、それほど驚きはしませんでしたけれども、単純ではない、複雑な感情が胸に込み上げてきました。
現場にしっかりしたリーダーがいて、皆で力を合わせれば、どんなに不可能と言われることでも実現することができるんです
大田嘉仁
日本航空元会長補佐専務執行役員
〈大田〉
私も大西さんと同じで、訃報を受け取った時に込み上げてきたのは、30年近く稲盛さんと共に人生を歩み、JALの再建でも主に意識改革担当として3年間ご一緒させていただき、本当に恵まれている、有り難いという感謝の思いでした。
それから、稲盛さんは常々「魂は不滅だ」「私たちはソウルメイトなんだ」とおっしゃっていましたから、たとえ肉体はなくなったとしても、稲盛さんの魂とはいつも一緒にいる、稲盛さんは身近におられるという気がしています。
私もコロナ禍などでここ数年は稲盛さんと直接お会いする機会は得られませんでしたが、今年に入って3度ほど電話で近況報告をさせていただきました。その報告をする相手がいなくなってしまったことは確かに寂しいですが、私の心の中にはKDDIの創業やJAL再建など、最もお元気だった頃の稲盛さんの姿がビルトインされている(組み込まれている)んですね。だから、これからも心の中の元気な稲盛さんに近況などを報告していきたいと思います。
〈大西〉
最も元気だった頃の稲盛さんが心の中にいらっしゃる。
〈大田〉
また、これも大西さんと同じなのですが、稲盛さんに多くのことを教えていただいた身として、その遺志を継ぎ、学んだことをできる範囲で次世代に繋いでいく役割が自分にはあるんだという使命感をより一層強くしています。
プロフィール
大西 賢
おおにし・まさる―昭和30年大阪府生まれ。灘高等学校を経て、53年に東京大学工学部を卒業後、日本航空に入社。整備畑での経験を経て、平成22年に日本航空インターナショナル管財人代理兼社長に就任、24年に会長、30年から特別理事を務めた。現在は帝人社外取締役、商船三井社外取締役、かどや製油社外取締役、学校法人国際大学理事、学校法人東洋大学客員教授、ベネッセHD社外取締役を兼任。
大田嘉仁
おおた・よしひと―昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空(JAL)会長補佐・専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任(30年退任)。現職は、MTG取締役会長、学校法人立命館評議員、鴻池運輸社外取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書に『JALの奇跡』(致知出版社)がある。
編集後記
京セラ時代から稲盛和夫氏に仕え、会長補佐としてJAL再建に携わった大田嘉仁さん。破綻後、社長に抜擢され、稲盛氏のもとで現場の陣頭指揮を執り、再上場を果たした大西賢さん。そこにどういう幹部がいるか、それが組織の盛衰を決めることをお二人の対談から教えられます。
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