「事故の真相を知りたい」 その父親の一念がドライブレコーダーを生んだ 片瀬邦博(元全国交通事故遺族の会理事)

28年前、東芝の技術者だった片瀬邦博さんは長男の啓章さんを突然の交通事故で亡くした。片瀬さんは事故の真相を明らかにしたいという一念で、事故を映像で残すための開発に取り組む。これが後に国内外に広く普及するドライブレコーダーである。開発に至る様々なご苦労を交えながら、これまでの歩みをお話しいただいた。

いろいろな困難にぶつかりましたが、歯を食いしばって頑張っているうちに、何かが閃いたりしてもうダメかと思う状況を何とか切り抜けることができました

片瀬邦博
元全国交通事故遺族の会理事

〈片瀬〉 
私は中学生の時、恩師からこういう言葉を教えていただきました。

 切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ
 踏み込んでみよ極楽もあり

何気なく聞いていた言葉ですが、「遂げずばやまじ」にも通じる言葉だと思います。

世の中に出てから幾度となくこの言葉に救われてきました。

いろいろな困難にぶつかりましたが、恩師の言葉を思い出しては逃げようとは思わなかったですね。歯を食いしばって頑張っているうちに、何かが閃いたりしてもうダメかと思う状況を何とか切り抜けることができました。

と同時に、それができたのもいろいろな人たちが私と家族を支えてくださったからです。

一番感激した出来事は、私が目撃者捜しのために交差点に立っていた時、小学校低学年のお子さんとお祖父さんがいらしたんです。私のことをチラリと見て花を手向けて立ち去ろうとされたので、私から声を掛けました。

そうしたら「実はきょう、あなたのことを孫が担任の先生から聞きました。孫がどうしても花を供えたいと言っているので、一緒にやってきたんです」と。

小さなことのように思われるでしょうが、これには本当に心打たれました。一つひとつの出逢いに支えられて私たちの今日があるんです。そういう人たちに報いる生き方ができたら嬉しいですね。

プロフィール

片瀬邦博

かたせ・くにひろ―昭和17年長野県生まれ。長野県立松本工業高校卒業後、東芝トランジスタ工場入社。54年東芝半導体営業統括部に転籍。ご子息の事故当時は東芝半導体営業統括部神奈川支社半導体営業企画課長。


2022年12月1日 発行/ 1 月号

特集 遂げずばやまじ

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