明治の実業家たちの気概に学ぶ 宮本又郎(大阪大学名誉教授) 北 康利(作家)

運鈍根とは、一代で古河財閥を築いた古河市兵衛の座右の銘である。古河に限らず、明治という激動期を生き抜いた実業者たちは、等しく凄まじい苦労と努力の中で成功を掴み取っていった。日本経済史の視点で大阪大学名誉教授の宮本又郎氏と実業者を題材に詳伝を執筆する作家の北 康利氏に彼らが生きた明治という時代と彼らの抱いた志、気概について語り合っていただいた。

明治の創業者たちを見ながら思うのは、彼らが総じて働き者だということです。渋沢栄一は約500社の企業に関係しています。91歳まで生きたことを考えても驚くべき数です。

宮本又郎
大阪大学名誉教授

明治維新の面白いところは、特別なビッグヒーローがいない点です。後発国の経済発展には中国の毛沢東、インドのネルー、韓国の朴正煕、あるいはソ連のレーニンもそうかもしれませんが、ヒーローと呼ばれる人がいる。しかし、日本にはそれがない。

そういう意味では、大隈重信が渋沢栄一に語ったという「八百万の神の一つの柱となって新しい日本をつくってくれ」という言葉のように、たくさんのヒーローがいて日本の近代化を推し進めていったことが明治という時代の大きな特徴といえるかもしれません。

富国強兵だ、殖産興業だと政府が旗を振っていた時代に、『論語』に象徴されるモラルの大切さを説くビジネスリーダーがいたことの幸せを、我われはもっと噛み締めるべきだと思います。

北 康利
作家

いま、教養を身につけるというような主旨でリベラルアーツという言葉が使われていますが、明治時代、偉くなっている実業家のほとんどは『論語』などの四書五経から入っているんです。なんであんなカビの生えたようなものを一所懸命暗記するんだと思う人もいるでしょうが、あの中に哲学も生き方も含めたリベラルアーツが詰まっていたんですね。

プロフィール

宮本又郎

みやもと・またお―昭和18年福岡県生まれ。神戸大学経済学部、同大学院修士課程修了。63年大阪大学経済学部教授、平成18年から関西学院大学大学院経営戦略研究科教授。20年より大阪企業家ミュージアム館長。専門は日本経済史・日本経営史。著書に『近世日本の市場経済』(有斐閣)『日本の近代 企業家たちの挑戦』(中央公論新社)など多数。

北 康利

きた・やすとし―昭和35年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券業務企画部長等を歴任。平成20年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)で第14回山本七平賞受賞。著書に『日本を創った男たち』(致知出版社)『思い邪なし 京セラ創業者稲盛和夫』(毎日新聞出版)など多数。近著に『本多静六 若者よ、人生に投資せよ』(実業之日本社)がある。


編集後記

共に近代の企業家について造詣が深い大阪大学名誉教授の宮本又郎さんと作家の北康利さんに、明治の実業家たちの功績や生き方、そこから現代を生きる私たちが学ぶべきことを解説していただきました。お二人の対談を通して、死線を越えて大事業を成し遂げていった先人たちの凄まじい気概が伝わってくるようです。

2022年10月1日 発行/ 11 月号

特集 運 鈍 根

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