人財の育成こそ企業発展の要なり 永守重信(日本電産会長 創業者 京都先端科学大学理事長) 名和高司(京都先端科学大学客員教授)

1973年、28歳の時に僅か4人で立ち上げた日本電産を、一代で世界一のモーターメーカーに育て上げた永守重信氏。経営者として既に破格の成功を収めた氏だが、2018年、74歳にして新たに挑戦を始めたのが、学校運営を通じての教育改革である。豊富な経営経験から培われた独自の教育観について、永守氏と共に人材教育に取り組んできた名和高司氏に繙いていただき、未開の高峰に挑み続ける永守氏のエネルギーの源を探った。

人間の能力の差は通常2倍くらい、秀才まで入れてもせいぜい5倍までですよ。しかし意識の差は100倍にもなる

永守重信
日本電産会長 創業者/京都先端科学大学理事長

名和
 理事長は常々、IQ(知能指数)よりもEQ(感性指数)、すなわち人間力のほうが大事だとおっしゃっていますね。

永守
 世間はIQばかり注目するんですけど、うちの社員を見ていると、IQが高いだけで素晴らしい製品を開発できる保証はないですよ。やっぱりEQのほうが大事。
 IQは生まれ持ったもので簡単には上がらないし、高い人と低い人の差はせいぜい5倍くらいしかありません。けれども、EQは磨けば上がるし、その差は100倍にもなる。だからIQの高い人を探すよりも、EQの高い、もしくは高くなる性格の人を選んだほうが、会社は絶対うまくいくんです。雑談力や人間性はこのEQと深く関わっていて、EQの高い人は人間関係をしっかり築くことができるから、営業をやればうまくいくし、開発をやれば上手に人心掌握をして多くの社員をまとめることができるんです。
 残念ながら、いまの若い人はEQを磨く機会がほとんどないんですね。子供の頃から塾に行かされ、家庭教師をつけられ、勉強ばかりやっているし、少子化だからきょうだいの中で揉まれて人間関係を学ぶチャンスもあまりない。だから学校の成績がよくて医者になっても、患者の気持ちが分からないから、データだけ見て「あなたはあと6か月の命だから」と平気で言ってしまう。
 いまの学校は、「教」――知識を与えるだけで、「育」――人を育てることをしていない。これは教育じゃないですよ。だから私の大学では、人の気持ちが分かる、EQの高い、人間力に満ちた人財を育てたいんです。

日本電産の三大精神は「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」。理事長の発信される言葉はどれも強烈に心に刺さるものばかりです

名和高司
京都先端科学大学客員教授

名和
 頭でっかちではダメだというのが、理事長の持論ですよね。
 これはやっぱり、人を動かしてなんぼの経営の世界で戦ってこられた理事長だからこその実感ではなかろうかと思います。例えば、京都大学の山中伸弥先生は、世界中の人から応援され、支えられてiPS細胞の研究をなさっていますが、これはやはり山中先生が高い人間性の持ち主だからだと思うんです。一緒に歩んでいきたいと思われるような人物でなければ大きな仕事もできないというのは、長年経営の修羅場に身を置いてこられた理事長の実感だと思いますし、だからこそそういう人財を育てていきたいとお考えになるのだと思うんです。
 京都先端科学大学にお邪魔すると、学生たちが和気藹々とキャンパスライフを楽しんでいる様子が伝わってきます。ただ知識を詰め込む授業ではなく、実験などを通して他の学生とコラボレーションしたり、チームワーク力を養ったりする機会をたくさん設けられていて、仲間と一緒に何かをしたいという気持ちを育むことを重視されていることが分かります。
 理事長はその一方で、EQだけでもダメだとおっしゃっていますね。人間性さえよければいいと思うと、どうしても甘さが出てしまう。やはり、現実の厳しさを乗り越えていく努力や執念はどうしても必要ですよね。

永守
 もちろんEQだけじゃダメです。当社の三大精神の一つは、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」ですけれども、そういう気概とか執念、あるいは向上心が強いとか、負けず嫌いであるとか、そういうものは不可欠ですよ。

プロフィール

永守重信

ながもり・しげのぶ―昭和19年京都府生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒業。48年日本電産設立、社長に就任。国内外で積極的なM&A戦略を展開し、世界ナンバー・ワンのモーターメーカーに育て上げた。会長兼社長(CEO)、会長(CEO)を経て、令和3年より会長。また、平成30年には京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園理事長に就任。著書に『「人を動かす人」になれ!』(三笠書房)『成しとげる力』(サンマーク出版)『永守流 経営とお金の原則』(日経BP)など。

名和高司

なわ・たかし―昭和32年熊本県生まれ。昭和55年東京大学法学部卒業、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事の機械部門(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。マッキンゼーのディレクターとして、約20年間コンサルティングに従事。平成22年一橋大学ビジネス・スクール(国際企業戦略科)教授。令和2年同客員教授。4年4月より京都先端科学大学国際学術研究院教授に就任予定。著書に『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)など。


編集後記

表紙を飾っていただいたのは、日本電産会長 創業者で京都先端科学大学理事長の永守重信さん。オンライン取材だったものの、画面越しに学校運営や教育改革に懸ける情熱やエネルギーが迸っていました。対談相手の京都先端科学大学客員教授の名和高司さんには、尊敬する永守さんが培ってきた経営哲学や人財育成の真髄に迫る質問を通して、永守さんの魅力を存分に引き出していただきました。

2022年3月1日 発行/ 4 月号

特集 山上 山また山

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