4 月号ピックアップ記事 /鼎談
森信三が目指した世界 浅井周英(「実践人の家」参与) 森 迪彦(「実践人の家」常務理事) 兼氏敏幸(「実践人の家」理事長)
生涯を通じて〝人生いかに生きるべきか〟を探求し、国民教育の師父と謳われた森 信三師。その英知に溢れた教えや言葉の数々は、没後30年を迎えてなお一層の輝きを放ち、多くの人々の人生を支え、導き続けている。生前の森師に師事した高弟の浅井周英氏、「実践人の家」の理事長を務める兼氏敏幸氏、そしてご子息の森 迪彦氏に、試練の連続だった森師の「山上 山また山」の歩み、目指した世界を語り合っていただいた。
森先生の人生は、最晩年に至るまでこれでもか、これでもかというくらい行く手を遮断される、〝山上 山また山〟の連続でした
浅井周英
「実践人の家」参与
特に若い人たちには、父の言葉に力を得て、日本の明るい未来をつくっていただきたいと願っています
森 迪彦
「実践人の家」常務理事
人間が生きていく上でのバックボーンが失われている今、時代が、人々が森先生の思想や教えを受け入れようとしているのではないかと思います
兼氏敏幸
「実践人の家」理事長
森
今年は私の父・森信三の没後30年の節目ということで、このような機会を設けていただき、とても嬉しく、感謝しております。
どうやら父は、30年という期間を一つの重要な区切りと考えていたようなんですね。例えば、仏教詩人の坂村真民先生についても、「30年経ったら、真民さんの偉さが日本の皆に分かるようになる。それまではちょっと我慢せないかん時がある」と言っています。
浅井
確かに、森先生は「自分が亡くなって30年経った頃、私が書いた本をたとえ二人か三人でも読んでくれたら、文化勲章をもらうより嬉しい」とおっしゃっていますね。しかし、没後30年経ったいまはもう、二人や三人どころではなく、数えきれない人が先生の著書を読み、言葉や教えを人生の糧にしている。特に『修身教授録』は超ロングセラーですよ。
森
本当にありがたいことです。
浅井
それから、森先生は「偉大な人というのは在職中に輝いている。退職した時にはさらに輝いている。亡くなってからはもっと輝いている」という言葉も残しておられます。これなどもご自身のことを前もっておっしゃっていたのではないかと思います(笑)。
兼氏
没後30年ということでいいますと、価値観が多様化し、人間が生きていく上での背骨、バックボーンが失われている今、やはり時代が、人々が森先生の思想や教えを受け入れようとしているのではないかと思うんですね。
それは一つには、森先生が残された思想なり教えなりが、非常に具体的で分かりやすく、誰にでも実践できるということが大きいのでしょう。例えば、先生が提唱された「再建の三大原理」や「しつけの三大原則」などは非常に分かりやすくて、すぐ実践できますし、実際に大変な効果があります。
森
おっしゃる通りで、父の教えが今なお人々に求められ、広がっている背景には、「具体的で誰にでも実践できる」ということが確かにあるのだと思います。父が大事にした「腰骨を立てる」ということも、最初は「こんなことでなぜ人生がよくなるんだ」と思われる方が多いのですが、実際にやってみると、「ああ、そういうことか」と逆に信奉者になって、どんどん広めてくださるようになると。
東洋哲学というのは、そもそも理屈では分からない。自分でやってみて初めてそのよさが分かってくる、掴めるものなんですね。
プロフィール
浅井周英
あさい・しゅうえい―昭和11年和歌山県生まれ。35年和歌山大学卒業後、教師となる。50年和歌山市教育委員会に入り、平成4年同教育長、8年より同助役を務める。18年森信三師が創設した「実践人の家」理事長。25年退任。
森 迪彦
もり・みちひこ―昭和16年満洲生まれ。20年引き揚げ。父・森信三は翌年帰国して、22年月刊誌『開顕』、31年『実践人』を発刊、家業として手伝う。42年大阪府立大学卒業後、大阪の会社に勤務。平成16年定年退職後、「実践人の家」事務局長、常務理事を務める。
兼氏敏幸
かねうじ・としゆき―昭和28年生まれ。神戸市外国語大学を卒業後、神戸市英語教諭、教頭、神戸市教育委員会指導主事、神戸市立中学校校長を歴任。現在は神戸龍谷高等学校勤務、平成21年より神戸読書会世話人、令和3年より「実践人の家」理事長。
編集後記
今年没後30年となる哲学者・森信三師の目指した世界を、師の薫陶を受けた3名に繙いていただきました。師が創設した「実践人の家」参与の浅井周英さん、同常務理事でご子息の森迪彦さん、同理事長の兼氏敏幸さん。迪彦さんは末期がんの病身で、一度は辞退したにも拘らず取材に応じてくださいましたが、残念ながら2月15日に永眠されました。迪彦さんの遺言ともいうべき渾身のメッセージを含め、心を揺さぶられる金言に溢れた鼎談です。
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