9 月号ピックアップ記事 /インタビュー
寿司は永遠なり——思いを引き継ぎ道を開く 中野里陽平(玉寿司社長)

大正13年に産声を上げ、98年の歴史を紡いできた築地玉寿司。若くして老舗の暖簾を受け継いだ中野里陽平氏は、会社存亡の危機を見事に乗り越え、このコロナ禍でも堅調な業績を維持している。逆境の中で氏を支えた言葉、そしてこの事業に懸ける思いをお聞きした。
世の中がどんどん変わっていく中、昔のやり方をただ踏襲するだけでは暖簾を守ることはできません。だから現状を肯定的に否定し続けること
中野里陽平
玉寿司社長
——このコロナ禍で飲食業は苦戦を強いられていますが。
中野里
はっきり申し上げて大変です。当社は現在37店営業していますが、昨春初めて緊急事態宣言が発出された時には、29店を二か月休止せざるを得なくなって九割も売り上げが減りました。
しかしその時、先代の父からかけられたのが「大丈夫だ。焼け野原から立ち上がってきた歴史を忘れるな」という言葉でした。
——とても力強い言葉ですね。
中野里
当社は、創業者の祖父が終戦前に病気で亡くなり、直後に東京大空襲で自宅もお店もすべて失いました。しかし、祖母が焼け野原から立ち上がって女手一つで再生させてきたのです。確かにいまは大変ですが、当時と違って着る物も住む家もあるじゃないかと。
ただ、社員はやっぱり不安でしょうから、一人もリストラはしないと。そしてこの状況は長く続くだろうから、匍匐前進で行こうとずっと言ってきました。
当社は、このコロナ禍に衛生管理を徹底して、従業員の間に一人の感染者も出していません。安心してお食事していただける場をご提供すると共に、例えばお店では、お客様に「もじにぎり」という手書きのメッセージカードを差し上げています。次回提示していただくと割引をさせていただくんですが、これは単なるクーポン券ではなく、人間同士の繋がりが希薄になりがちなこのご時世に、温かみのある、人の繋がりを取り戻せる場をご提供したい、そんな思いを形にしたものなんです。
プロフィール
中野里陽平
なかのり・ようへい——昭和47年東京都生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業。デンバー大学ホテルレストラン学科修了。飲食のMBAともいわれるHRTM取得。平成12年玉寿司入社。17年社長に就任。
編集後記
老舗の暖簾を引き継ぎ、見事に再生させた玉寿司社長の中野里陽平さんに、事業に懸ける思いをお話しいただきました。

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