7 月号ピックアップ記事 /インタビュー
一千人のSOSに向き合い続けて 藤藪庸一(白浜バプテストキリスト教会牧師)
日本の自殺者は年間2万人を超え、「自殺大国」と呼ばれて久しい。そんな中、和歌山県は南紀白浜の名勝・三段壁で、22年にわたり自殺志願者と向き合ってきた牧師がいる。藤藪庸一氏。24時間365日、自らの生活を擲(なげう)って人の心に光を灯してきた歩みを辿(たど)ると共に、いまを生きる人へ渾身のメッセージをいただいた。(写真:三段壁)
助けを求められた人は、万一、助けられなくてもいい。よい手が浮かばなくても、最後まで真剣に話を聴く、一緒に泣く。それだけで結果は変わってくるのです
藤藪庸一
白浜バプテストキリスト教会牧師
「もう生きていても仕方ない」
「私が死んでも誰も悲しまない」
教会にはこんな電話が毎日のように掛かってきます。県外からの相談も合わせると、多い時は月に200件になるでしょうか。
2021年に入り、自殺を企図して三段壁に来る人に、いままでにない変化がありました。女性の増加です。例年、元日から数か月で保護する人の男女比はほぼ七対三でした。今年はそれが逆転し、女性が男性の2倍になっています。
自殺しようと思った理由を聴くと、このコロナ禍で夫婦一緒に過ごす時間が増え、衝突して離婚するなど、行き場を失ってしまう方が非常に多くいらっしゃいます。
長年様々な方の悩みを聴いてきましたが、人生の歯車が狂うきっかけはこうした人間関係の変化、職場環境の変化など、「そんなことで?」と思うような些細なことです。しかし1つ、2つと問題が重なるにつれ追い詰められ、自殺を考え始めます。決して特別な人だけに降りかかることではありません。誰もが陥り得るものなのです。
その時、生死を分けるものは何か。一つは、その人が「助けて」と声を上げられるかどうか。もう一つは、助けを求めた相手がどういう反応を示すか。これだけです。
(上)海を見下ろす崖の上に立つ看板。公衆電話ボックスの隣にも佇んでいる
(下)2011年、自殺志願者の自立支援の一環で開業した「まちなかキッチン」厨房
プロフィール
藤藪庸一
ふじやぶ・よういち――昭和47年和歌山県生まれ。東京基督教大学卒業後、平成11年白浜バプテストキリスト教会牧師に就任。「いのちの電話」を引き継ぐと共に、自殺志願者との共同生活を始める。17年NPO法人白浜レスキューネットワークを設立。現在、自殺志願者の自立支援の他、自殺予防のための活動にも取り組む。著書に『「自殺志願者」でも立ち直れる』(講談社)『あなたを諦めない』(いのちのことば社)がある。
編集後記
昼夜を問わず鳴り響く自殺志願者からの電話。そのSOSに耳を傾け続ける牧師・藤藪庸一さんの歩みはまさに心に光を灯す救済の実践です。命の現場から、いまをよく生きるために何が大事かを教えられます。
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