6 月号ピックアップ記事 /インタビュー
懸命に打ち込む先に辿り着ける世界 上田美和(鹿児島県立屋久島高等学校元演劇部顧問)
赴任して3年目にして、廃部寸前だった屋久島高校演劇部を全国大会で優秀賞(2位)を受賞するまでに導いた顧問の上田美和先生。「頑張ることは格好悪い」という風潮が無きにしも非ずの昨今、一つの事に懸命に打ち込む尊さを正面から説く上田先生に、演劇への情熱、教育へ懸ける思いを語っていただいた。
懸命な努力、一所懸命に頑張った経験がないと辿り着けない世界があると私は信じています
上田美和
鹿児島県立屋久島高等学校元演劇部顧問
上田
生徒たちは初めてこの台本を読んだ時、あまりピンときていませんでした。社会問題を扱っている上に昭和の話ですから、中身が少し大人びているんですね。まして、部員の中にはアニメや漫画が好きで、コスプレまがいの演技や声優のような声色の変化を楽しんでいる子もいる中で、「声色を使うな」「昭和の登山服を着ろ」「老婆の真似をしろ」と言うわけですから、「やりたいことと違う」と、初めは葛藤があったと思います。
――そのような中、どのように指導されていきましたか?
上田
やはりモチベーションが大切です。「なぜこの演劇をするのか」という動機づけがしっかり行われないと生徒たちは使命感を持ちません。そのため森林伐採の歴史や人々の奮闘を伝え、舞台化する意義を繰り返し繰り返し共有し、目線合わせをしていきました。
もちろんスキルやノウハウも教えますが、観る人の心を打つのは子供たちの目の輝きやセリフの言い方なのだと思います。ですから、生徒たちがどれほど本気でこの作品に向かっていくか、内面からほとばしる思いがあるか。その思いの部分を大切にしていきました。
動機づけの一環として、実際に現地にも足を運んでいます。演技には森の中のシーンがあるので、実際に山に行って木々を見たり、鎌やチェーンソーを使って木を切る体験をし、演技のリアリティを追求しました。丸裸になった伐採跡も見学に行き、この負の歴史を伝える大切さを体感してもらったこともあります。屋久島で生まれ育ったこともあり、部員たちの意識が変わったのは早かったですね。
プロフィール
上田美和
うえだ・みわ――昭和47年鹿児島県生まれ。大学を卒業し、2年間都内の出版社に勤務後、地元に戻り国語科の教員に。平成13年鹿児島県立宮之城高校に勤務中、創作した演劇『トシドンの放課後』で九州大会優秀賞(2位)を受賞。28年屋久島高等学校に転任。30年『ジョン・デンバーへの手紙』で全国大会優秀賞、創作脚本賞をダブル受賞。令和3年鹿児島本土の鹿児島県立伊集院高等学校に転任。
編集後記
廃部寸前だった屋久島高校演劇部を全国二位に導いた顧問の上田美和さんが指導の秘訣、演劇に込めた情熱を語ります。
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